artscapeレビュー

村上友重「この果ての透明な場所」

2013年09月15日号

会期:2013/08/20~2013/09/20

G/P GALLERY[東京都]

村上友重は2004年に個展「球体の紡ぐ線」(新宿ニコンサロン、第6回三木淳賞受賞)でデビューして以来、一貫して風景をテーマにした作品を発表してきた。本人から見ると、いろいろな紆余曲折はあったのかもしれないが、傍目で見ると順調にキャリアを積み上げ、その作品世界も広く、深くなってきているように思える。今回はオランダの写真雑誌『Foam Magazine』が公募した「Foam Talent」賞に選出された新作の展示だった。
写真を通じて「不可知なことに近づいていくこと、または近づいてみたいと願うこと」を目指すという彼女にとって、霧に包まれた眺めという今回のテーマは必然的なものだったと言えるかもしれない。会場には1,200×1,000ミリの大判サイズに引き伸ばしたプリントが7点並ぶが、それらはすべて半ば白い霧に閉ざされた風景を撮影したものだ。霧の中から、火口らしきもの、建物らしきもの、草原らしきものの姿がぼんやりと浮かび上がってくる。見えそうでよく見えないそのたたずまいは、カメラを構えて、手探りで世界の輪郭、手触りを確認していこうという写真家の営みを暗示しているようでもある。おそらく、その霧の中に包み込まれた不透明な状態も過渡的なものであり、やがては晴れ渡ったクリアーな眺め、「この果ての透明な場所」が目の前に開けてくるのだろう。今回の個展のタイトルは、その願望を込めた名づけであるようにも思える。

2013/08/22(木)(飯沢耕太郎)

2013年09月15日号の
artscapeレビュー