artscapeレビュー

田口順一『音楽』

2013年09月15日号

発行所:冬青社

発行日:2013年7月10日

高橋国博が主宰して、東京・中野でギャラリーと出版の活動を続ける冬青社からは、時折ユニークな写真集が刊行される。田口順一の『音楽』と題する写真集もそんな一冊だ。
田口は1931年、新潟県生まれだから、東松照明や奈良原一高など、VIVOの写真家たちと同世代にあたる。日本大学芸術学部音楽学科の作曲コースを卒業後、ずっと千葉県の高等学校で教鞭をとりながら現代音楽の作曲家として活動してきた。千葉県立幕張西高等学校の校長を退任後は、武蔵野音楽大学大学院の教授も務めている。その彼は、船橋写真連盟に属して写真家としても作品を発表してきた。「50年間音楽と関わり作曲活動を続けて来ましたが、その活動の足跡と共に、『今の私のあり様』をまとめて」みたのが、今回の写真集ということになる。
ページを開くと、五線譜、ト音記号、自作の曲の楽譜のコピーなどの間に、おそらく身近な場面で撮影したとおぼしき写真が並ぶ。壁、地面、コンクリートの塀などをクローズアップで撮影したそれらの写真群は、周囲の環境からは切り離されて、色彩と物質感のみの表層的なイメージとして抽象化されている。それらのたたずまいは、たしかに視覚的な「音楽」としか言いようのないものであり、田口がそこから確実に何かを聴きとっていることが伝わってくる。ありそうであまりない試みであり、実際に曲を流して、スライドショーのような形で見せても面白いかもしれないと思った。

2013/08/15(木)(飯沢耕太郎)

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