artscapeレビュー

普後均「On the circle」

2009年12月15日号

会期:2009/11/04~2009/11/17

銀座ニコンサロン[東京都]

普後均は1980年代からの長いキャリアと、高度な技術を持つ写真家で、これまでも安定した水準にある作品をコンスタントに発表してきた。今回の「On the circle」もなかなか見応えがある。だがそれだけではない。正統派のイメージを打ち破る、ひねりを利かせた快作でもある。
タイトルが示すようにテーマは「円」(サークル)。雑草が生えている庭のような場所に、コンクリートのようなもので固められた丸い空間がしつらえてある。その「円の上で」いろいろな出来事が起こる様子を、写真家はやや上方から写しとっている。風船に囲まれた青年、バレリーナと中年の男女、中華鍋で顔を隠した花嫁、舟の上の老婆──さらに「円」の周囲では四季が巡って、草は枯れたり茂ったりし、雨や雪が降り、不意に炎が燃え上がったりする。つまりこの「円」は世界そのものの寓意であり、そこでは写真家が呼び寄せた人物たちによる、さまざまな出来事が起こっては消えていくのだ。
このような演劇的な手法は、ともすれば底の浅いものになりがちだが、あえて淡々と撮影することで、静かな、抑制された雰囲気を作り出したことが逆に成功している。普後の師匠である細江英公なら、もっとドラマチックな演出を試みそうだが、そのあたりに写真家のスタイルが滲み出てくるということだろう。そういえば、普後の代表作である『FLYING FRYINGPAN』(写像工房、1997年)も、フライパンの丸い形にこだわったシリーズだった。「円」は彼にとって、魔術的な意味合いを持つイメージの生成装置なのだろうか。

2009/11/14(土)(飯沢耕太郎)

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