2018年06月15日号
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artscapeレビュー

セラミックス・ジャパン 陶磁器でたどる日本のモダン

2017年02月01日号

会期:2016/12/13~2017/01/29

渋谷区立松濤美術館[東京都]

幕末の開港以来、他の工芸品とともに日本の陶磁器は欧米のジャポニスム・ブームに乗って海外に大量に輸出された。しかしそのブームは長くは続かなかった。明治半ばになるとブームは下火になり従来の日本趣味の輸出工芸は衰退へと向かう。輸出工芸の衰退は作家主義の近代工芸への転換の契機として工芸史において叙述されるが、陶磁器分野において「陶芸家」になり得たのはごく一部の人たちのみで、その他大勢、産地の陶磁器業者たちは、新たな製品、新たな市場を模索せざるを得なくなる。製品の市場、人々の生活様式が変われば、求められる製品やその意匠も変化する。陶磁器業者や産地は売れる製品を開発すべくさまざまな努力を重ねた。美術品から実用的な器へ、あるいは碍子や点火プラグのような産業用用途へ、窯業技術を応用した製品のジャンルは拡大し、意匠においては欧米の陶磁器製品を模倣したり、日本のアジア進出に伴って東洋趣味の製品が現れた。さらに、第二次世界大戦中には不足した金属に代わってそれまでにないさまざまな製品が陶磁器で代替されるようになった。しかしながら、これら名も無い多数の陶磁器メーカー、産地の仕事が美術館における近代陶磁の展覧会に取り上げられることは極めてまれなことで、本展のように明治から第二次世界大戦中まで、約70年間という長期にわたる日本の陶磁器産業の製品開発をデザインという側面から概観する展覧会は寡聞にして先例を知らない。
展示は4章で構成されている。第1章「近代化の歩み」では、ヨーロッパでの博覧会参加後の日本風上絵付けの隆盛、ゴットフリート・ワグネルの指導による技術改良、ジャポニスムの終焉とアール・ヌーボー様式の台頭への対応、試験場の設立など、明治期における陶磁器産業近代化の過程を辿る。明治初期において薩摩焼が海外で好評を得たため各地で類似の意匠による焼きものが作られ海外に輸出されたが、ジャポニスムの終焉とともに独自の技術、意匠によって局面を打開しようとした産地もあった。第2章「産地の動向」ではそうした産地の独自性が紹介されている。第3章「発展・展開」では、大正から昭和初期にかけての近代的な都市生活に適合的な陶磁器製品、意匠の開発、いわゆるデザイン、デザイナーが登場した様子、陶磁器試験場の多様な試みを見る。終章は戦中期。資源節約のための規格化や技術革新、金属代替製品などの試みに焦点を当て、戦後の陶磁器デザインへの展望へとつなげる。
最初に述べたとおり、本展は作家ではなく、作品でもなく、産業としての陶磁器──セラミックス──に焦点を当てており、会場にはうつわ以外に、照明器具、噴水器、洗面台、汽車土瓶、瀬戸ノベルティ(陶人形)、火鉢やストーブ、タイルなどの建築材料まで、多様な製品が並ぶ。ただしタイトルに「陶磁器でたどる日本のモダン」とあることから分かるように、本展の視点は陶磁器における近代デザイン運動にあり、それらが製品として成功し、売れたかどうか──どれほどのものが人々の生活の場に届いたかどうか──については十分に検証されていない。とくに陶磁器試験場の試みはいわゆる研究開発(Research & Development)であり、そこには商品化されていないものも含まれることに留意したい。国内、欧米、アジアといった製品市場の違いとデザイン開発との関係についてもさらに検討すべき課題だろう。また日本独自の製品、意匠が模索された一方で、ヨーロッパ陶磁のコピー商品が大量につくられてきた事実も忘れるわけにはいかない。ともあれ、本展は近代陶磁器デザインの歴史研究を深めるきっかけとなるだろう画期的な企画だと思う。[新川徳彦]


展示風景

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