2017年05月15日号
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artscapeレビュー

2009年03月15日号のレビュー/プレビュー

『the travels n°01 Paris パリ』

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発行所:エクスナレッジ

発行日:2008年12月12日

パリの建築ガイドブック。そもそも手持ちに手頃なサイズでここまで包括的なものもなかったと思う。建築の情報も詳しく、よく見ると電話番号やURLまで書いてある。また通常の建築ガイドと異なるのは、グルメ、ギャンブル、音楽の情報も付随しているところ。著者の一人、伊藤俊治氏によれば、大人が都市を楽しむためのガイドブックでもあるそう。書店で手に取っただけだと分からないかもしれないが、色違いのしおりが3本あり、カバーを外すとモレスキンの手帳のようにゴムバンドが現われるなど、使いやすさにも重点がおかれている。もちろん普通の地図と地下鉄マップもついているが、パリで実際に役に立つ通り名検索ができるのがよいところ。日本語の本では珍しい(ただし、すべての通り名ではない)。同シリーズで、今後さらに別の都市のガイドブックが出版されるという。

2008/12/12(金)(松田達)

『今日の建築』(Vol.001)

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発行所:NAP建築設計事務所

発行日:2008年1月7日

中村拓志主宰のNAP建築設計事務所が発行するフリーペーパーNAP Timesの第二号として発刊。この号よりタイトルを「今日の建築」として、中村が建築家に連続インタビューをするという。Vol.001では、アトリエ・ワンの塚本由晴氏に「建築と社会」をテーマにロングインタビュー。現在、都内複数の書店などで手に入るほか、NAPのホームページからPDF版をダウンロードできる。二人のトーク自体、相当に面白いし、この手のフリーペーパーのなかで、デザインが群を抜いてよい。ところで、個人的には塚本と中村が「ふるまい」というキーワードで意見の大部分を共有している点が非常に興味深かった。生物の生態が「ふるまい」であり、塚本はそこから建物の「ふるまい」を考える。塚本は、「ふるまい」が面白いのは、生物の個体差を超えていく点だと指摘し、「繰り返し」や「反復」を前提にして「ふるまい」が生まれると語る。さらに塚本は、日本の変化し続ける住宅地から、変化してもその加速度は一定かもしれないという「動的なコンテクスト」を読み取り、そのなかにおける建築の可能性が示唆される。メタボリズムは、変化するコンテクストの状況に合わせて建物を新陳代謝させるため、つねにコンテクストの変化に対して遅れをとってしまう。しかし塚本のいう「動的コンテクスト」をふまえた建築というものは、コンテクストの時間的変化を先取りしているがゆえに、これまでの建築とは違うものになる可能性が語られる。塚本の射程は、個別の住宅の設計が、個別でありながらも都市的な風景を形作るような枠組みをつくることにも至っている。このような話はインタビューの一部に過ぎず、2万字に及ぶインタビューのなかに、いくつもの興味深いテーマを読み取ることが出来るだろう。今後の中村によるロングインタビューの展開も楽しみである。

2009/01/07(水)(松田達)

Aプロジェクト

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[東京都]

本号で紹介している二作、菊地宏《大泉の家》と長谷川豪《狛江の住宅》は、ミサワホーム東京のAプロジェクト(アーキテクト・プロジェクト)によるプロデュースである。プロデューサーは大島滋氏。大島は、例えばアトリエ・ワンの《ハスネ・ワールド・アパートメント》(1995)など、長年のあいだ、数々の建築プロデュースを手がけてきた。施主にとっては、どの建築家に頼めばよいか分からない場合、若手から大御所まで建築家に幅広いネットワークを持つ大島氏が、条件にあわせて最適な建築家を紹介する。長年そのコーディネートに携わってきた大島は、特にまだ実績の少ない若手建築家にも、多く実作の機会を提供してきたことでも知られる。大島はハウスメーカーのよさを活かしつつ、設計者が設計に専念できる環境を整え、施主と建築家を結ぶ役目を果たしている。実際の大島氏は、とても熱い。建築への強い愛を、建築プロデューサーという職業を通じて、かたちにしているのだ。


関連URL:http://www.a-proj.jp/test_site/

2009/01/17(土)(松田達)

菊地宏《大泉の家》

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[東京都]

竣工:2009年
プロデュース:大島滋(Aプロジェクト)

新築としては菊地宏の処女作。学生時代からずっと注目していた人で、この人の建築を見ることはとても楽しみにしていた。都内の私鉄の線路沿いという敷地。もともとハウスメーカーへの依頼があったのだが、敷地が三角形で規格住宅の建ちにくい場所。設計条件として簡単ではない。そこでAプロジェクトの大島氏から菊地氏に依頼が来たという。直角三角形の鋭角の部分は駐車場、残りの部分を利用して、三階建てのヴォリュームが立ち上がっている。赤茶色の外壁と斜線による屋根の傾斜、さらにいくつかの形態操作によって、何か岩のようなものが立ち上がっているような印象を受ける。菊地がヘルツォーク&ド・ムーロン事務所出身であることと線路沿いという条件から、《シグナル・ボックス》を思い出す人もいるかもしれない。確かにそのたたずまいは似ていなくもない。しかしスケールや用途は全く異なっており、菊地独自の思考と解法が随所に現われているように思えたのが印象的だった。
この住宅の特徴としてまず「色と開口部」を挙げることが出来るだろう。壁は基本的に白色だが、各階にそれぞれ特徴的な色をもった壁が存在する。一階のLDKの奥には若草色、二階には落ち着きのある赤とスカイブルー、そして一見分からないほど薄いグレー、三階には映えるようなオレンジ色に塗られた壁がある。一階から三階に上がるシークエンスのなかで、彩度の強い色は、緑、赤、青、橙という順にほぼ補色の関係として現われることで、それぞれの色が強調されるという。おそらくそれぞれの色は、周囲の環境を注意深く観察することで選択されているのだろう。ところでスカイブルーの隣の薄いグレーの壁は、設計者本人から言われるまで気付かなかった。それくらい淡い色である。しかし気付く必要はないという。なぜならこの色は存在を主張するわけではなく、隣のスカイブルーをわずかに浮き上がらせるために必要だったというからである。おそらく生活する環境の中で、長く使っているうちに意識にのぼるかのぼらないかというような微妙な感覚に作用する壁である。少なく限定された開口部は、色と関係しているだろう。線路のすぐそばという条件から、防音のために開口部が制限される。しかしそれ以上に、内部と外部との関係を最小限に保ち、色の効果を高めている。その結果か、まるで壁から空間に色がにじみ出してくるような感覚を覚えた。
もう一つの特徴として「階段と形態」を挙げたい。「くの字」に折れ曲がった階段によって、のぼる時、降りる時に、先が見えないという効果が生み出されている。しかし180度向きを変える折り返し階段だと先が完全に見えないのに対して、「くの字」階段はまったく先が見えないわけではない。奥があるけれども先がよくは見えないことによって、奥行き感が生み出され、各階の結びつきにワンクッションを置いている。三階建ての住宅であるが、僕にはこの住宅が、一階から三階に、そして三階から五階に、つながっているかのように思われた。ところで、この階段の位置によって、この住宅の外観には鈍角の凹部がつくられている。菊地によればこの凹んだ形態は、本来、岩石など自然の形態には現われるのに、建築のスタイロフォームなどによるヴォリューム・スタディでは現われにくい形態であるという。この住宅ではそのようないわば「自然な形態」が使われている。プランをよく見ると、一階のキッチン部分にも「くの字」の形態が、そして不定形なバルコニーの形態にも、あるいは断面の形状にも、実は「くの字」が反転して現われていることに気付く。こうすることによって、鋭角の敷地のとんがった「鋭角性」というものは、いつの間にか、優しく、自然な形態をともなった「鈍角性」へと置き換えられていっている。
外観を見ると、線路の脇にまるで巨大な岩石がずっと前から存在していたかのようにも見える。外部と内部は、見かけ上、別々のように見えるけれども、必要な部分が必要に応じて連続的に考えられている。コンセプトがあるけれども、コンセプトで押し通しているわけではない。新築住宅として菊地の処女作であるはずなのに、つくることの先の先まで読んでいるかのような、素晴らしい住宅であると思った。

2009/01/25(日)(松田達)

長坂常/スキーマ建築計画《佐藤邸》リノベーション

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[東京都]

竣工:2009年

奥沢にて、長坂常/スキーマ建築計画による佐藤邸リノベーション・プロジェクトのオープンハウスへ。中村塗装工業所の協力を得て、壁や床など、表層への色や素材による操作を通じて、場の雰囲気を変えたり、次々に表裏の感覚が反転するしかけを散りばめている。木造住宅の各階ともに間仕切りを外し、大きなワンルームとして再構成された。二階の中央には、発光する透明な箱のなかの白い設備ユニットを挿入し、バルコニーには屋上にのぼるはしごを付加している。古い部分があるからこそ、味が出るような知的な建築だ。その結果、どこにでもあるような家が、アート的な特質を獲得している。

2009/01/31(土)(五十嵐太郎)

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