artscapeレビュー
待兼山少年──大学と地域をアートでつなぐ《記憶》の実験室
2015年07月01日号
会期:2015/04/30~2015/07/11
大阪大学総合学術博物館 待兼山修学館[大阪府]
大阪大学総合学術博物館で、昨年解体された「阪大石橋宿舎」をめぐる学際的な「お見送りプロジェクト」の模様を紹介する展覧会。同宿舎は1958年に竣工されて以来、教職員の宿舎としてのみならず地域の人々と大学をつなぐ場としても機能してきたが、耐震上の問題から廃止されることとなった。半世紀以上にわたる四つのプロジェクトが、2014年7月から11月に行なわれた。ひとつ目が、美術家の伊達伸明氏による「建築物ウクレレ化保存計画」。これは、宿舎の階段等から出た廃材をウクレレとして活用・制作することで保存するものである。二つ目が、宿舎の窓面に「サッカードディスプレイ(縦1列に並べたLEDを使って2次元イメージを提示するもので、目線を変えることで像が浮かび上がる)【括弧内を移動済み】」で人々の顔を映像展示するもの。三つ目が、工学研究科のリノベーション計画で、学生たちが宿舎から新しい空間を構想するプロジェクト。四つ目が、クリッシー・ティラー氏(ロンドン大学)によるパフォーマンスのワークショップ。これらが架空の存在である「待兼山少年(じつは伊達氏でもあり誰でもありうる存在)」によって案内され、パネルや映像・音など多様なメディアを用いて資料展示された。伊達氏のインスタレーションには、上記のサッカードディスプレイがコラボされており、見どころとなっている。本展は、戦後に建てられた近代建築が次々と取り壊されていく状況にあって、アートは地域とどう関わりなにをなしうるのかをドキュメンテーションする興味深い試みといえよう。[竹内有子]
2015/06/05(金)(SYNK)