artscapeレビュー
GOCHO SHIGEO 牛腸茂雄という写真家がいた。1946-1983
2016年11月15日号
会期:2016/10/01~2016/12/28
牛腸茂雄は不思議な写真家で、没後30年以上経ても、彼への関心が薄れるどころか、さらなる展示や出版の企画が続いている。今回の、FUJIFILM SQUARE 写真歴史博物館での展示は、いわば彼の作品世界のダイジェスト版と言うべきものだが、それでも牛腸の写真には見る者の目をとらえて離さない、強力な磁力のようなものが備わっているように感じた。
展示の全体は3部に分かれ、第1部の〈こども〉には初期のスナップ写真が5点、第2部の〈SELF AND OTHERS〉には代表作というべき同名の写真集から27点、そして第3部の〈幼年の「時間(とき)」〉には、彼の最後のシリーズとなった子供たちの写真5点が出品されていた。全37点という数は、あまり多いとはいえない。だが、緊張感を感じさせる写真群を見続けていると、これくらいがちょうどいいという気もしてくる。
牛腸は被写体をあたかも標的のように、画面の真ん中に寄せて撮ることが多い。それゆえ彼の写真を見るときには、写っているモデルたちと真正面から顔を見合わせて対峙することになる。それはあまり普段は経験することのない、特殊な状況と言える。そして、モデルがたとえ幼い子供たちであっても、そこには一個の人間としての揺るぎない存在感がある。牛腸自身もまた、それらの顔と向き合いつつ、「自己とは?」、「他者とは?」、そして「人間とは?」と、自問自答を繰り返していたはずだ。そんな問いかけに答えなければならない地点へ、否応なしにわれわれを追い込んでいく力が、彼の写真には確かに備わっているのではないだろうか。
2016/10/05(水)(飯沢耕太郎)