artscapeレビュー

田口芳正『MICHI』

2016年11月15日号

発行:東京綜合写真専門学校出版局
発行年:2016/09/16

田口芳正は1949年、神奈川県鎌倉市生まれ。1977年に東京綜合写真専門学校卒業後、PUT、OWL、FROGといった、写真家たちの自主運営ギャラリーで作品を発表してきた。この写真集には1977~79年の初期作品26点がおさめられているが、そのすべてが、道を歩きながら連続的にシャッターを切って撮影した写真をやや小さめにプリントして、グリッド状、あるいは渦巻き状に配置したものだ。このような被写体の意味性や物語性を潔癖に排除して、「写真とは何か?」を写真によって提示しようとする「コンセプチュアル・フォト」は、田口だけでなく1970年代後半~80年代にかけて活動した多くの若い写真家たちによって共有されていたテーマだった。田口の営みは、そのなかでも「『私』の行為の軌跡を『見る』こと、『撮ること』と『見る』ことの意識化」を推し進めていく強度と純粋性において際立っている。
以前から何度か指摘してきたのだが、自主運営ギャラリーを中心に展開されていた「コンセプチュアル・フォト」、あるいは「写真論写真」にスポットを当て、きちんと検証していく時期が来ているのではないだろうか。確かにあまり目立たない、地味な動きではあったが、写真と現代美術の境界領域を果敢に切り拓こうとした彼らの活動は、相当の厚みを備えたものであったことは間違いない。田口の仕事をあらためて見直しても、40年という歳月を経ているにもかかわらず、みずみずしさが保たれていることに驚かされる。ぜひ美術館レベルでの掘り起こしを進めていただきたい。その第一歩として、この写真集の刊行は大きな意味を持つのではないだろうか。

2016/10/31(月)(飯沢耕太郎)

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