artscapeレビュー
デトロイト美術館展 ~大西洋を渡ったヨーロッパの名画たち~
2016年11月15日号
会期:2016/10/07~2016/01/21
上野の森美術館[東京都]
デトロイトといえばかつて自動車の街として栄えたが、近年は自動車産業の低迷で都市は財政破綻し、いまや全米一治安の悪い都市として知られるようになった。とはいえ、かつて栄えた街には必ずすばらしい美術館があるもの。このデトロイト美術館も例外ではなく、ヨーロッパの近代絵画を中心とする質の高いコレクションがそろっている。ということはこの展覧会、コレクションを国外に巡回させて少しでも予算の足しにしようというコンタンだろう。そんな面倒なことをするより、コレクションそのものを売っぱらってしまえという乱暴な話も出たらしいが、そこはなんとか踏みとどまったという。展覧会の導入部は美術館の紹介だが、ホールの壁4面に描かれたディエゴ・リベラのフレスコ画の写真パネルがあり、これは実物を見てみたくなった。
展示は1階が19世紀後半、2階は20世紀前半の近代絵画。ドガは初来日の《女性の肖像》をはじめ5点、セザンヌは《三つの髑髏》など4点と、なかなかの品揃え。オッと思ったのは、ヴァロットンの美しい作品《膝にガウンをまとって立つ裸婦》があったこと。ヴァロットンが選ばれたのは、最近日本でも展覧会が開かれたからだろう。2階に上がるとフォーヴィスムやキュビスムが並ぶ、と予想したら大ハズレ、意外なことにドイツ近代絵画が並んでいるのだ。しかもその大半はナチスに「退廃芸術」の烙印を押された表現主義ではないか。ひょっとしてこれらはナチスがドイツ中から前衛絵画を集めて売り払った際、そのころ羽振りのよかったデトロイトが買ったものかもしれない。ナチスに嫌われそうなキルヒナーの《月下の冬景色》、ルシアン・フロイドに通じるオットー・ディクスの《自画像》がすばらしい。最後が20世紀前半のフランス絵画で、特にマティスの1910年代に集中した3点と、ピカソの初期からキュビスム、古典主義を経て晩年にいたるまでの6点が見られた。「クラーナハ展」の内覧会までの時間つぶしに見たわりに収穫の多い展覧会だった。
2016/10/14(金)(村田真)