artscapeレビュー

レイ・メツカー「Informed by Light 1957-1968」

2016年11月15日号

会期:2016/08/24~2016/10/29

PGI[東京都]

レイ・K・メツカー(1931~2014)はアメリカ・ミルウォーキー生まれの写真家。1956~59年にシカゴ、インスティテュート・オブ・デザインで学んだ、いわゆる“シカゴ派”の代表作家の一人である。この学校の前身はラースロー・モホリ=ナジが1937年に設立したニュー・バウハウスであり、そのモダニズム的な造形写真の伝統は、戦後にハリー・キャラハンやアーロン・シスキンドによって受け継がれ、発展させられていった。
メツカーもまた、その流れを色濃く汲む写真家であることは、今回展示された1950~60年代の代表作37点(ほとんどがヴィンテージ・プリント)を見ればよくわかる。都市の眺めがカメラによって切り取られ、モノクロームの印画紙上に再現されているのだが、それらは単純化、抽象化されたハイコントラストの画像に処理され、ほとんど原形を留めていない。あるいは、2枚の写真を上下、左右に並置する「Couplet」(1968)のシリーズでは、相互の画像の時間的、空間的なズレを視覚化しようと試みている。
このような、写真という媒体を介して、現実世界を純粋なフォルムに還元して再構築する、造形的、実験的な写真のスタイルは、メツカーだけではなく、ケン・ジョセフソンや石元泰博などインスティテュート・オブ・デザイン出身の写真家に特徴的な傾向であり、1950年代以来多くの写真家たちに影響を及ぼしていった。だがその後、よりリアリスティックなアプローチが主流になるに連れて、やや古風なスタイルとして傍に追いやられていく。ところが、それから時代が一巡りした現在から見ると、それらが逆に新鮮に見えてくるのが面白い。デジタル化したカメラや画像処理のシステムを駆使することで、モダニズム写真を創造的に再解釈することが可能となるのではないだろうか。

2016/10/18(火)(飯沢耕太郎)

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