artscapeレビュー
クラーナハ展 500年後の誘惑
2016年11月15日号
会期:2016/10/15~2016/01/15
国立西洋美術館[東京都]
クラーナハといえば、マルティン・ルターの肖像画や艶かしいヴィーナス像で知られる画家だが、日本ではデューラーほど紹介されておらず、今回が初めての展覧会となる。それにしてもなんでいまクラーナハなのかと思ったら、来年がルターの始めた宗教改革の500周年に当たるからだ。そうか、ヨーロッパでは宗教改革がらみの展覧会がたくさん企画されてるに違いない。さて、同展にはルターやヴィーナスのほか、みずから胸に剣を突き立てるルクレティア、敵将の首を掻き切るユディット、老人と若い女性の「不釣り合いなカップル」(現代なら援交か)など、エグいモチーフが目立つ。ときおりクラーナハに触発されたピカソの版画や、北方ルネサンスの影響を受けた岸田劉生や村山知義による肖像画、クラーナハのヴィーナスを彷彿させるジョン・カリンのヌード画、ユディットを翻案した森村泰昌のセルフポートレートなどが出てきて面食らう。西洋美術館も進化したもんだ。圧巻はレイラ・パズーキの《ルカス・クラーナハ(父)〈正義の寓意〉1537年による絵画コンペティション》。西洋名画を大量にコピーすることで知られる中国・深圳の芸術家村の画家100人に、クラーナハの《正義の寓意》を模写させたもの。「クラーナハ展」にこんな大量の「贋作」を出していいのか。おもしろいのはこれを描かせたのがイスラム教国イラン人で、描いたのが中国人であること。西洋美術がアジアにシフトしてきている。
2016/10/14(金)(村田真)