artscapeレビュー
パッシブタウン
2018年06月15日号
[富山県]
YKK AP会長の吉田忠裕が構想した黒部のパッシブタウンを見学した。第1期は住人が積極的に開口部を調整する小玉祐一郎、第2期は各住戸が3面に向き、ポーラスな空間をもつ槇文彦、単身者用の第3期はリノベーションと減築を試みた森みわが担当し、さらに宮城俊作がランドスケープを手がけている。すなわち、異なる設計思想により、パッシブデザイン(機械的な方法によらず、温熱環境を整える手法)に取り組み、その効果を測定したうえで、残りの3街区の建設に取り掛かるという。感心させられたのは、外構が豊かで素晴らしいこと。関東圏では、なかなかこれだけ緑あふれる環境を提供するのは難しいだろう(パッシブタウンでは、駐車場を地下に設けることで実現している)。しかも、ここは住民以外にも開かれており、公園のようにも使われる。街づくりという点では、道路側に飲食店を入れたストリートモール、保育所、スポーツジムなどを入れている。
これまで槇による《前沢ガーデンハウス》をはじめとして、ヘルツベルガーによる社員寮、大野秀敏や宮崎浩らによる関連施設など、建築家によるYKK関係の作品が黒部につくられてきたが、あくまでも点だった。しかし、今回は面としての街づくりに踏みだしている。パッシブタウンは、クルマ社会になりがちな地方において、あえて自動車をあまり使わないライフスタイルも提唱している。なお、黒部市は民間だけではなく、公共施設も充実しており、日本建築学会賞(作品)を授賞した新居千秋の《黒部市国際文化センター・コラーレ》、ロン・ヘロンによる《風の塔》、栗生明の《黒部景観ステーション》などが存在し、わずか4万人程度の人口とは思えない密度で、名建築が集中している。なお、新しく開通した新幹線の黒部宇奈月温泉駅の駅前の円形ロータリーも、栗生事務所出身の鈴木弘樹が設計したものだ。官民問わず、槇事務所系列の作品が多いことも特筆される。
2018/05/28(月)(五十嵐太郎)