artscapeレビュー
《ハルニレテラス》《ピッキオビジターセンター》《ドメイヌ・ドゥ・ミクニ 軽井沢(旧飯箸邸)》
2018年06月15日号
[長野県]
《星のや 軽井沢》は、宿泊エリア以外にも、外部の人が出入りできるレストランの「村民食堂」や「トンボの湯」などの施設をもち、さらに審査のときにはなかった新しい施設もいろいろ増えていた。例えば、川と車道に挟まれながらリニアに続く、《ハルニレテラス》(2009)も、東利恵とオンサイトがタッグを組み、屋外空間や自然と絡みながら、物販や飲食店が入る9棟が散りばめられている。クリエイター(障がい者)と支援者が作品を制作するRATTA RATTARRのプロダクトを販売しているNATURなど、興味深い店舗が入っていた。なお、いずれの建築も、宿泊棟と共通するのは、切妻屋根のヴォリュームである。
2016年に開業した《ピッキオビジターセンター》は、クライン・ダイサム・アーキテクツが建築を担当し、その正面に広がるケラ池スケートリンクはオンサイトによるものだ。これは曲線の輪郭をもつ池に沿って、弧を描く湾曲した建築が配置されている。造形言語としては、建築が外部空間と相互貫入するバロック的な手法だが、けっして重々しくない。むしろ、クライン・ダイサムらしいセンスで軽快さを演出しながら、自然環境に開いていく。ここは昼と夜を体験したが、それぞれ異なる表情に出会う。おそらく、冬に池がスケートリンクになると、全然違う状態になるだろう。
チェックアウトしたあと、《ドメイヌ・ドゥ・ミクニ 軽井沢》に移動した。坂倉準三が戦前に手がけた世田谷の《旧飯箸邸》を移築・保存し、レストランとして活用している建築である。江戸東京たてもの園に移築された《前川國男邸》のように、大きな切妻屋根の木造モダニズムだが、白い直方体の空間は、吹き抜けによって上に伸びるよりも、大きな開口で庭に接続していく。興味深いのは、引き戸ではなく、外側にくるりと回転し、テラスの石の上でぴたっと止まる大きなガラス戸である。飲食しながら楽しめるモダニズムの空間だった。
2018/05/19(土)(五十嵐太郎)