artscapeレビュー
石塚公昭「ピクトリアリズム展Ⅲ」
2018年06月15日号
会期:2018/05/12~2018/05/25
青木画廊[東京都]
1957年、東京生まれの石塚公昭は、著名な文学者たちをモデルにした人形作家として活動しながら、それらを画面に配した写真作品を発表してきた。タイトルの「ピクトリアリズム」(pictorialism)というのは、19世紀から20世紀諸島にかけて流行した、絵画の構図やマチエールを写真で表現しようとする傾向である。石塚はこれまで、オイル印画法のような、その時代の古典技法を使った作品を主に制作してきたのだが、3回目の個展となる今回は「人物像の陰影を出さずに撮影し、画面に配した作品」を試みている。もともと、1850~60年代の「ピクトリアリズム」の草創期には、オスカー・G・レイランダーやヘンリー・P・ロビンソンのような作家が、複数のネガをひとつの画面に合成した「活人画」を思わせる作品を発表していた。今回の試みには、「ピクトリアリズム」の原点回帰という意味合いもありそうだ。
三島由紀夫の「潮騒」や「金閣寺」、江戸川乱歩の「黒蜥蜴」や「怪人二十面相」、三遊亭圓朝の「牡丹灯籠」、葛飾北斎の「蛸と海女」などに題材をとり、人形と実際の風景、あるいは石塚自身が描いた絵を合成して、幻想と現実が一体化した画面をつくり上げていく手際は見事なもので、高度に完成されている。カラープリントの色味を強調し、手漉和紙(阿波紙)にプリントする手法もうまくいっていた。27点の作品のなかには、文学作品や浮世絵の図像から離れて、石塚自身のイマジネーションを定着した「陰影のある作品」も含まれているが、それらもなかなか面白い。石塚の「ピクトリアリズム」の探求は、さらにさまざまな可能性を孕んで展開していきそうだ。
2018/05/22(火)(飯沢耕太郎)