artscapeレビュー
岩佐又兵衛 浄瑠璃物語絵巻
2018年07月01日号
会期:2018/04/27~2018/06/05
MOA美術館[神奈川県]
いちどは行ってみたいと思いながら、なかなか行く機会がなかった美術館のひとつに熱海のMOA美術館がある。とくに昨年、杉本博司と榊田倫之の主宰する新素材研究所が改修工事を手がけてからぜひ行かねばと思い、ようやく実現。駅前からバスで山を登り、エントランスに到着。ここからエスカレータを乗り継ぎ、太平洋を見下ろすテラスを通って美術館に入る。鳴門の大塚国際美術館も似たようなアプローチだが、上昇しながらトンネルをくぐって天にいたると比喩的に捉えれば、むしろ弟子筋に当たるMIHO MUSEUMのイニシエーションに近いかもしれない。いずれにせよMOAのほうが早いけどね。前に来たことがないのでどこまで改修したのかわからないが、外観も内部もとてもすっきりしていて思ったよりきれいだ。全面的に改修したのだろうか。
いま特別展示しているのは岩佐又兵衛の《浄瑠璃物語絵巻》。これは「義経説話の一つで、奥州へ下る牛若と三河矢矧の長者の娘浄瑠璃との恋愛譚を中心に、中世末期には浄瑠璃節として、盲目の法師によって盛んに語られていた」物語だという。ぜんぜん知らなかったが、ひとつわかったのは「浄瑠璃」がこの女性の名に由来することだ。とにかくその絵巻全12巻を公開しているのだが、瞠目すべきは物語よりなにより、登場人物の着ける衣装や寝室の調度などが極彩色の高価な顔料で濃密に描き込まれていること。このディテールに対する情熱はなんだろう。MOAはほかにも又兵衛の《山中常磐物語絵巻》を所有しており、そちらのほうも義経伝説に基づく物語で、義経の母の常盤御前が山中の盗賊に惨殺されたり、それを義経が仇討ちしたりする話だが、首が飛んだり胴体が輪切りになったり凄惨な殺戮シーンが見ものなのだ。ほんとはこちらを見たかったのだが、昨年リニューアル後に公開されたばかりなので、しばらく見られないだろう。
2018/05/20(村田真)