artscapeレビュー
ダダルズ#1『MからSへ』
2018年07月01日号
会期:2018/06/16~2018/06/18
新宿眼科画廊スペースO[東京都]
他者との関係を「うまく」結ぶことのできない人々。そのあまりの「うまくいかなさ」に笑ううち、いつしか私は居心地の悪さを感じていた。
『MからSへ』に登場する3人はそれぞれに弱さを抱えている。同僚(永山由里恵)の財布から金を抜き取る女(大谷ひかる)。発覚し返金を求められ、それに応じようとはするものの、期日までに満額を用意することができない。女はあろうことか二、三度会ったことがあるだけの男(横田僚平)を、事情を知らせぬままに同僚との待ち合わせの場所に同席させ、その場で借金を申し込む。男は男で、無職であるにもかかわらず親に頼るから問題ないとそれを引き受けてしまう。同僚は納得がいかず食い下がるが、いたたまれなくなった女は2人を残してその場から逃げ出してしまう。
女はどうしようもない人間だが、それはまさにどうしようもないこととしてある。女はおそらく、盗みを働こうとも、借金を踏み倒してやろうとも強くは思っていない。誘惑に負け、プレッシャーに負け、嫌なことからただ逃げたいという消極的な意志があるだけだ。女もそれを自覚していて、だからこそお金を「返さないかもしれません」「先に謝っておきます」などと口走る。それもまた弱さの表われでしかないのは言うまでもない。
男は男で、端から見れば意味不明な言動をしばしば取り、円滑に会話をこなすことができない。その反動のようにして、たかられているとわかっていても女に金を貸してしまう。そんなものでも関係を求めてしまう。唯一「まとも」なのが同僚の女だが、彼女は順序立ててものごとを説明することが苦手で、そんな自分が許せない。失敗を許せない弱さは正論を振りかざすというかたちで他人に向かう。
大石恵美の戯曲と演出、それに応える俳優の演技が描き出す彼らの弱さは極めて解像度が高い。裁きも許しも啓蒙もなく、淡々と観客の前に投げ出されるそれ。観客に求められているのは、ただそれに付き合うことだ。
公式ページ:https://twitter.com/dadaruzu_net
2018/06/18(山﨑健太)