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ルーヴル美術館展 肖像芸術—人は人をどう表現してきたか

2018年07月01日号

会期:2018/5/30~2018/09/03

国立新美術館[東京都]

これまで数多くの「ルーヴル美術館展」が開かれてきたが、今回は「肖像」がテーマ。肖像といってもいろいろあるので、序章と終章を除いて「記憶のための肖像」「権力の顔」「コードとモード」の3章に分けている。このうち第3章は広く肖像画を集めているので省くとして、第1章は消えゆく人の姿を残すため、第2章は権威づけのプロパガンダとしてつくられたもので、前者は「死への抵抗」、後者は「生への執着」と読み替えられるかもしれない。おそらくここに絵や彫刻をつくることの初期衝動が潜んでいるはずだ。

第1章で注目したいのは、数人の家族の顔を石板に彫ったレリーフ《墓碑肖像》と、腹から虫がわき出し腸がはみ出ている悲惨な姿を彫った《ブルボン公爵夫人…(長いので省略)》という石像。前者は家族の思い出に彫ったものだが、どの顔も似たり寄ったりで区別がつかず、後者は「メメント・モリ(死を想え)」の一種だろうが、悪趣味きわまりない。だからおもしろい。有名な作品では、ダヴィッドの《マラーの死》(弟子に描かせたコピーで、原画はブリュッセルにある)も出ているが、これは英雄の死を悼むと同時に、革命のプロパガンダとしても機能したことから、第1章と第2章の橋渡しも兼ねているようだ。

第2章ではアレクサンドロス大王やカラカラ帝、グロによるナポレオン1世などおなじみの肖像があるが、そそられるのは《国王の嗅ぎタバコ入れの小箱》に収納された権力者たち48人の小さな肖像画。セーヴル王立磁器製作所でつくられた磁器製のミニアチュールで、縦7センチ足らずの楕円形の画面にマリー・アントワネット、ルイ14世、モリエール、スウェーデン女王クリスティーナらの肖像が描かれているのだ。これはほしくなる。なぜほしくなるのか考えたら、おそらく掌に収まるくらい小さいうえに、絵画や彫刻より耐久性があるからだろう。つまり「永遠の生」を手に入れることに通じるのだ。

最後に、第3章で触れなければならないのは、メッサーシュミットの《性格表現の頭像》だろう。こんな彫刻は見たことないというくらい思いっきり顔をしかめたセルフポートレートなのだ。彼は自身が精神を病み始めたころから、笑ったり唇を突き出したり異様な表情の彫刻を密かにつくり始め、死後アトリエから69体もの変顔の頭像が発見されたという。ある意味、現代美術やアウトサイダーアートにも通じるものがある。

2018/05/29(村田真)

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