2019年07月15日号
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artscapeレビュー

露口啓二『地名』

2018年07月15日号

発行所:赤々舎

発行日:2018/02/01

露口啓二は、昨年(2017)、福島県の原子力発電所事故にともなう「帰還困難区域」と「居住制限区域」を含む風景写真集『自然史』(赤々舎)を上梓し、高い評価を受けた。その彼の次の写真集は、1999年に開始され、中断を経て2014年に再開された「地名」シリーズだった。北海道各地で撮影された写真には、それぞれ「大誉地/Oyochi/o-i-ochi(川尻〈そこ〉に・それが・多くいる・ところ=river mouth.it.a lot of.place)」という具合に、和名の地名とその読み、その元になったアイヌ語の地名とその意味が付されている。いうまでもなく、露口がもくろんでいるのは、アイヌたちが暮らしていた土地を収奪して上書きした北海道の地名が孕む重層的な構造を、写真と「地名」を通じて暴き出すことである。併記された和名とアイヌ語を眺めているだけで、さまざまな感慨が湧き上がってくるのを抑えることができない。

さらに興味深いのは、「成人した人々の標準的と思われる視線の高さ」で撮影された場所を、少し時間を置いて「再度訪れ、同じ場所から前回の写真の右あるいは左を撮影」していることだ。写真集には、そうやって撮影された2枚の写真が並んでいるのだが、この操作も二つの地名と同様に、その「間」へと思いを導くために設定されているのではないだろうか。周到に準備され、細やかに達成された作業の集積によって、日本の風景を、写真を通じて読み解いていく新たな回路が生み出されつつある。『自然史』と『地名』を二つの柱とする露口の写真家としての営みが、今後、どのように大きく開花していくのかが楽しみだ。

2018/06/25(月)(飯沢耕太郎)

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