2019年09月01日号
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artscapeレビュー

吉田五十八《猪俣邸》《吉屋信子記念館》

2018年07月15日号

[東京都、神奈川県]

東北大学五十嵐研の関東ゼミ旅行において、吉田五十八が1960年代に手がけた2つの住宅を見学した。最初は東京の成城学園前の高級住宅街に建つ《猪俣邸》である。土地柄、周辺には豪邸が目立つが、これは特に超豪邸と言えるだろう。もっとも、平屋建てであり、高さやデカさ、もしくは過剰な装飾によって存在を誇張する建築ではない。したがって、外からは生け垣や植栽によって視界もさえぎられ、ほとんど見えない。が、内部に入ると、庭や小さな中庭に面する流動的かつ可変的な空間の豊かさがとても気持ちいい。時代や世代を超えて、居心地のよさも共有できる。細かい技を散りばめた20世紀のモダン和風の傑作である。吉田の場合、《日本芸術院会館》やローマの《日本文化会館》など、不特定多数の人が出入りする大きなスケールのデザインだと、ときどきおかしい感じがするのだけど(それは吉田に起因するのではなく、本来の日本建築のプロポーションのせいかもしれないが)、こうした住宅に関しては卓越した才能をもつ。ちなみに《猪俣邸》は、世田谷トラストまちづくりが管理していることによって、きれいに維持され、われわれの見学が可能になっている。大変ありがたいことである。

もうひとつは、鎌倉でちょうど春の一般公開が行なわれていた《吉屋信子記念館》である。これは吉田の設計によって、既存の家屋を移築・増改築し、作家の吉屋が暮らしていた住宅だったが、死後に土地と建物が鎌倉市に寄贈された。考えてみると、これに限らず、昭和時代は画家や作家らが施主となった名作の住宅が少なくないが、果たして平成以降はどうなのだろうか、少々心配になる。《猪俣邸》のような新築だと、あらゆる細部においてさんざん技巧を凝らせていたが、《吉屋信子記念館》では、表現をかなり抑え、天井の意匠や空間のフレーミングなどに注力し、ゆったりとした場をつくっている。前面道路から見ると、敷地のだいぶ奥に家を配し、これも庭を眺める住宅だった。また機能性が求められる台所は、《猪俣邸》の仕様と似ている。

《猪俣邸》書斎の角から庭を見る



《猪俣邸》和室の縁側


《猪俣邸》左=居間から茶室を見る、右=渡り廊下の先にある第一の茶室


《猪俣邸》居間と食堂に面した中庭の角


《吉屋信子記念館》外観


《吉屋信子記念館》左=応接間、右=書斎


《吉屋信子記念館》応接間よりも一段高い和室


2018/06/09(土)(五十嵐太郎)

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