artscapeレビュー

菱田雄介「border|korea」

2018年07月15日号

会期:2018/05/27~2018/06/24

Kanzan Gallery[東京都]

菱田雄介は2017年に写真集『border|korea』(リブロアルテ)を刊行した。2009年以来、北朝鮮を7回、韓国を10回以上訪問して撮影した、「朝鮮半島の北と南を並置した組写真」によるこの写真集は、土門拳写真賞や林忠彦賞の最終審査に残るなど高い評価を受ける(第30回写真の会賞を受賞)。ちょうど、南北首脳会談や米朝首脳会談が話題になり、朝鮮半島の政治・社会状況に対する関心が高まってきたことも、本展が開催された背景にあるだろう。

今回のKanzan Galleryでの個展は、むろん写真集に収録された学生、軍人、主婦、僧侶、生まれたばかりの赤ん坊などを対比させた写真の展示が中心なのだが、写真集では別冊として提示した「脱北者」の写真も含まれている。それよりも、むしろ本展において重要な意味を持つのは、新作の映像作品「Moving Portrait」ではないだろうか。「Moving Portrait」は、菱田が北朝鮮と韓国でモデルたちを撮影している様子を、別のカメラで撮影した「メイキング動画」とでもいうべき作品である。モデルたちはカメラを向けられることで、緊張や戸惑いの表情を見せる。特に北朝鮮の若い学生やダンサーたちの落ち着きのなさが印象深い。つまり、写真の前後の時間の厚みが動画によって補強されるとともに、彼らを取り巻く環境がリアルな空気感として捉えられているのだ。デジタルカメラに動画機能が取り込まれることで、「写真家による映像表現」の可能性は大きく拡張しつつあるが、本作もその雄弁な証明といえそうだ。

「border|korea」のシリーズは、一応は完結したが、現代社会におけるさまざまな「border」は、むしろ強化されつつあるように思える。それらを鋭敏に嗅ぎ当て、カメラを向けていく菱田の試みも、さらに続いていくはずだ。

2018/06/02(土)(飯沢耕太郎)

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