artscapeレビュー

松原健「Spring Steps」

2018年07月15日号

会期:2018/05/18~2018/06/13

LOKO GALLERY[東京都]

松原健は1980年代から写真作品をコンスタントに発表してきた。2000年代以降は映像を積極的に使ったインスタレーションに移行し、「記憶の反復や循環、共鳴」をテーマに、さまざまな方向に作品世界の幅を広げつつある。その高度に洗練された作品は、むしろ日本よりも欧米諸国での評価が高い。今回、東京・代官山のLOKO GALLERYで展示された「Spring Steps」も、彼の志向が隅々にまで行きわたった見応えのある作品だった。

今回の展示の発想の元になったのは、戦前に横浜のダンスホールで撮影されたという一枚の写真である。シックな装いの男女が、楽しそうに社交ダンスに興じている。松原はたまたまその写真を目にして、「ダンス」をモチーフにした作品群を構想した。メインの作品となる「Dancing Table」は、丸いガラスに封じ込まれた映像の断片が吊り下げられて回転し、それがテーブル上に置かれた割れた鏡に反射して壁に投影されるインスタレーションである。イメージの断片が、変幻しつつ姿を変えていく様は、幻影と現実とのあいだを往還する楽しみを味わわせてくれる。ほかにも、ダンスシューズや丸テーブル(松原が写真に付け加えた架空のオブジェ)をテーマにした作品が並び、会場には物憂いジャズのスタンダードナンバーが流れていた。

視覚、聴覚などを喚起する全身的な体験を、細やかに編み上げていく松原の能力の高さは、特筆すべきものがある。だが、何度かこの欄でも指摘しているように、日本の美術関係者の評価はあまり高まってこない。もう少し大きな会場で、思う存分腕をふるった作品群を見たいものだ。

2018/06/01(金)(飯沢耕太郎)

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