2019年09月15日号
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artscapeレビュー

日本・スウェーデン外交関係樹立150周年 インゲヤード・ローマン展

2018年10月15日号

会期:2018/09/14~2018/12/09

東京国立近代美術館工芸館[東京都]

私はインゲヤード・ローマンを「スタッキングの女王」と呼びたい。ローマンはスウェーデンを代表するデザイナーであり陶芸家である。本展は彼女自身が選んだ代表作約180点が一堂に会した、集大成的な展覧会であった。その大半が陶磁器とガラス食器である。いずれもきわめてシンプルで、凛とした美しさを備えていたのはもちろん、印象的だったのはスタッキングの美である。どのメーカーの製品にしろ、ローマンはたいていの器と器とを重ね合わせていた。重ね合わせることを前提にデザインしているようで、大から小までを順に重ね合わせることで整然とした入れ子になる器もあれば、有田焼ブランド2016 /の《ティー・サービス・セット》のようにカップの蓋がコースターとなり、ポットの蓋がストレーナー置きとなる機能的な重ね合わせもある。さらに木村硝子店の《THE SET》のように、重ね合わせたときに「蓮の花に見えるように」とデザインした器もある。

《ティー・サービス・セット》(2016)2016株式会社
[Photo: Anna Danielsson/Nationalmuseum Stockholm]

《THE SET》(2017)木村硝子店
[Photo: Anna Danielsson/Nationalmuseum Stockholm]

なかでも見事だと感じたのは、北欧のガラスメーカー、オレフォス(Orrefors)やスクルフ(Skruf)のカラフェとグラスの重ね合わせである。それはカラフェの口の上にグラスが伏せて被せられているデザインもあれば、カラフェの口の中にまるで栓のようにグラスが上を向いた状態で組み込まれているデザインもあった。後者のデザインは、日本人にはなかなか思いつけない発想だ。さらにカラフェの口縁に横縞の白い線、グラスに縦縞の白い線が入れられていて、重ね合わせると格子模様が浮かび上がる凝ったデザインもあった。展示台に設置されたローマンのインタビュー映像を見ると、カラフェとグラスは、彼女の幼少期の思い出が原体験となっていることが語られる。グラスは、井戸から水を汲み取るための柄杓の象徴だという。カラフェにたっぷりと新鮮な水を入れ、冷蔵庫に冷やしておく。そして喉が乾いたときに、そのカラフェの上に載ったグラスに水を注いで飲む。そんな暮らしのワンシーンが、凝縮されているのだ。さらにローマンは人間に欠かせない水の大切さを語る。彼女がガラス食器のデザインに携わるのは、ガラスと水が似ているからだと言う。そう言われると、ガラス食器を重ね合わせた姿は幻想的な水紋を想像させる。ローマンがスタッキングにこだわるのは収納性や機能性だけではない、ガラスや陶磁器の表情をより豊かに見せるための手段なのだろう。

公式ページ:http://www.momat.go.jp/cg/exhibition/ingegerd_2018/

2018/09/26(杉江あこ)

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