2019年12月01日号
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artscapeレビュー

Rachel Whiteread

2018年10月15日号

会期:2018/09/16~2019/01/13

National Gallery of Art, Washington[アメリカ合衆国ワシントンD.C.]

ワシントン訪問の際に、National Gallery of Artを訪れた。ターナー賞受賞経験もある現代彫刻家、レイチェル・ホワイトリードの回顧展が開催中だった。初期作品から、家具や扉、窓を型取りした彫刻の代表作品、ドローイングや写真などの平面作品、近年のサイトスペシフィックなパブリック・プロジェクトの記録までを辿る。2017年秋に始まったTate Britainを皮切りに、欧米各地を巡回している。日本ではまとまって見る機会の少ない作品群をじっくりと鑑賞できた。



一部屋の内部空間そのものを石膏で型取りした《Ghost》

導入部に展示された「トルソ」シリーズの作品が、湯たんぽを石膏や樹脂で型取りし、「トルソ」と名付けることで人体に見立てられているように、ホワイトリードの関心の出発点は、家具やインテリアなど、日常的に人の身体と接触する物体を型取りして彫刻化することで、目に見えない記憶や身体的な痕跡を示唆することにある。湯たんぽに始まり、椅子、マットレス、浴槽など、「人体との接触面」を型取りによって取り出し、内部の空洞を石膏や樹脂で物質的に充填することで、日常的にその表面に触れ、あるいはそこを埋めていた人体の存在が逆説的に浮かび上がる。「型取り」の技法を用いるため、サイズは原寸大が保たれるが、石膏や樹脂といった素材で置換されるため、再現的なディティールは削ぎ落される。内部を見通せない石膏の不透明さや鈍重さ。対照的に、薄く色づいた色彩の透明感が、非物質的な軽さへと上昇する樹脂の儚げな佇まい。澱のように凝固した不可解な量塊と、亡霊的なまでの物質感の希薄さ。それらは記憶の原型のようなものに近く、「記憶に質量はあるのか」「記憶の形象化は可能か」といった問いを触発する。



手前:椅子の下の空間を型取りした《Untitled(Twenty-Five Spaces)》 奥:「トルソ」シリーズ

そこにはまた、「ミニマル・アートへの美術史的参照」も含まれる。例えば、古い建物の床を型取りした正方形のプレートを敷き詰めた作品はカール・アンドレを、母親の遺品を詰めた段ボール箱を型取りした立方体の作品は、ロバート・モリスを連想させる。だが、ミニマル・アートを形態的には示唆しつつ、そこに人の痕跡や気配の残存が加わることで、類型的に並べられる形態は、その類似性や反復性の向こうに、それをかつて使用していた人々の身体的、習慣的差異へと連想を誘う。そこには、男性主導のミニマル・アートへの批判的眼差しも読み取れるだろう。



窓や扉を樹脂で型取りした作品群

近年のホワイトリードは、個人的な記憶(父親が死んだ際のマットレス、母親の遺品が詰まったボックスなど)から、よりパブリックな記憶(ホロコーストのメモリアルなど)へと展開している。それらの大掛かりでサイトスペシフィックな作品のドキュメントとともに、作家が拾ったり集めたさまざまな日用品やオブジェが小さなスケッチブックとともにガラスケースに収められ、思考の魅力的な小宇宙を形成していた。



拾遺物やスケッチブックなどを収めたケース

2018/09/16(日)(高嶋慈)

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