artscapeレビュー

倉谷卓「Ghost’s Drive」

2018年10月15日号

会期:2018/09/26~2018/10/09

銀座ニコンサロン[東京都]

目の付け所のよさを感じる写真展だった。1984年、山形県生まれの倉谷卓は、故郷に近い山形県遊佐町で、お盆の時期にオモチャの自動車を軒先に吊り下げる習慣があることを知る。それらを同町の友人の助けを借りて、3年余りにわたって撮影したのが、今回展示された「Ghost’s Drive」のシリーズである。

同地域では、以前はナスやキュウリなどを供えるとともに、水草で編んだ「精霊馬」を吊り下げていたのだという。ところが、それをつくる職人が少なくなったことと、移動の手段が馬から自動車に変わったこともあって、戦後の一時期からオモチャの車が普通になった。先祖の霊が自動車に乗って訪れるという発想自体が面白いが、それぞれの家ごとに、さまざまな種類の車が吊り下げられているのが目を引く。赤い車が多いのは、「故人が乗っていた、憧れていた車」ということのようだ。電車やバスなどもあるが、これはご先祖さまの数が多いので、一度に乗ることができるようにという理由だという。タクシーには料金の千円札が挟み込まれている。飛行機やヘリコプターなどまである。

倉谷の撮影ぶりは、肩の力を抜いた軽やかなもので、吊り下げられたオブジェの「ポップでシュール」な雰囲気がうまく捉えられている。「Ghost’s Drive」というタイトルも気が利いている。民俗行事が時代の変化とともに現代化していくプロセスは、ドキュメンタリー写真のテーマとしてもっと広く取り上げられてもいいのではないだろうか。なお、本展は10月25日~11月7日に大阪ニコンサロンに巡回する。

2018/10/02(火)(飯沢耕太郎)

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