2019年12月01日号
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artscapeレビュー

青年団リンク やしゃご『上空に光る』

2018年10月15日号

会期:2018/09/13~2018/09/24

アトリエ春風舎[東京都]

青年団リンク やしゃごは青年団の俳優・伊藤毅が作・演出を務めるユニット。やしゃごとしては今回が初の公演だが、これまでにも伊藤は『きゃんと、すたんどみー、なう。』(2017)などの作品を伊藤企画の名義で発表している。

舞台は東日本大震災の大津波で大きな被害を受けた岩手県大槌町の民宿。震災後、観光客は減ったが、復興工事業者の利用があるため、経営はなんとか成り立っている。震災で夫が行方不明になり民宿を継いだ女性とその弟妹、彼女たちの義兄、老母の介護をしつつ民宿で働く女性、長期滞在の業者と夫を亡くした海を描き続ける画家、死者と話せるという「風の電話」の話を聞いて東京からやってきた女性二人組、町役場で働く男性、そして被災地を取材する劇作家。立場の異なる人々が交わるうち、それぞれの事情が浮かび上がる。

ナチュラルな口語と多くの人が行き交うセミパブリックな空間での会話を通して登場人物の背景を明らかにしていく劇作は青年団を主宰する平田オリザの手法を正当に受け継いで巧みだ。終盤、彼女たちが抱える「問題」が次から次へドミノ倒しのようにと明らかになっていく。新たなパートナーとの時間を始めようとする長女の葛藤とそれに対する義兄の憤り、飼っていたフェレットを亡くした女性の悲しみ、介護する老母を虐待してしまう女性の苦しみ。わかりあえなさゆえに彼女たちはときに衝突するが、もともとそれらは比較できるものでも、正解があるようなものでもない。

作中に登場する劇作家はときに無神経とも思える態度で彼女たちを取材する一方、彼の抱える事情や思いだけは一切描かれることがない。つくり手の思いがどこにあったとしても他者を代弁することはできないし、観客(そこには取材先の人々も含まれるかもしれない)が何を思うかは観客次第だ。劇作家の描き方は、そのことを受け入れるという作者のささやかな、しかし確固たる決意表明のように思えた。

[撮影:bozzo]

青年団リンク やしゃご:https://itokikaku.jimdo.com/

2018/09/13(山﨑健太)

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