2020年03月15日号
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artscapeレビュー

はなもとゆか×マツキモエ『VENUS』

2019年12月15日号

会期:2019/11/21~2019/11/23

京都芸術センター[京都府]

ポップでキャッチーな世界に潜ませた毒と批判精神が持ち味のダンスデュオ、はなもとゆか×マツキモエ。平塚らいてうのスローガン「元始女性は太陽であった。」に続き、「しゃもじをラケットに」と謳うコピーが付けられた本作では、「約1時間の上演時間中、安室奈美恵の楽曲が流れ続ける」という過剰な多幸感に満ちた世界で、ピンポン球=卵すなわち生殖や世間的圧力のメタファーが飛び交うなか、「ラケットで球を打ち返す」脅迫的な身振りの反復、男女間の支配や依存の関係、そして自立への意志が紡がれていく。



撮影:前谷開


本作を特徴づけるのは、歌詞やモノローグとして声に出されるものと、身体的な位相との落差だ。ひたむきな恋愛の純粋さ、ポジティブさに溢れた安室奈美恵の歌詞。恋バナや合コンでの出来事を語る、はなもとのモノローグ。その一方で、支配と依存、暴力といった男女間の力関係が、支配/被支配の関係性や主導権を流動的に入れ替えながら、短いシークエンスの連なりとして活写されていく。例えば、序盤と中盤で反復される、腹ばいで進む男の背に馬乗りでまたがる支配者としての女。一方、別のシーンでは、女の身体は2人の男に物体のように引きずり回され、仰向けに横たわった顔の上にはピンポン球が容赦なく落とされ続け、女性の身体に加えられる暴力を暗示する。男女が身体の一部を次々と接触させながら絡み合うシーンは、コンタクトによるダンスムーブメントと激しいセックスの境界を融解させていく。そこでは相手に馬乗りになる側が絶えず入れ替わり、支配/被支配の流動性を示すとともに、組み敷かれた側の者がコンタクトによって相手の動きをコントロールしている可能性もあるのだ。



撮影:前谷開


また、舞台上ではしばしば、生殖のメタファーとしての「卵」およびその相似物としてのピンポン球が飛び交うのだが、ラケットの素振りを反復する身振りは、見えない球を打ち返す、つまり見えないプレッシャーをはね返し続ける脅迫衝動を暗示する。あるいは、それぞれの長い髪の毛をひとつのお下げに編み込んだ男女は、文字通り一心同体となって足並み揃えたスキップで登場するが、依存/束縛から脱け出そうともがく女は、最終的に自分だけの髪の毛でお下げを編み直し、自立への意志を示す。

不気味なのは、これらの光景を、一段高い奥の壇上に身を置いて一見無関心を装いながら、実はコントロールしているような超越的な者の存在だ。ピンポン球=卵を容器から容器へと移し替え続け、何らかの秩序や選別を司るこの者は、ラストで大量のピンポン球=卵を舞台上にぶちまける。四方八方から飛んでくるその球=プレッシャーをはね返そうと素振りを続ける女たちは、相手が不在のまま、1人で戦う孤独なゲームにいつまで従事させられるのか。彼女たちのしんどさは、「延々と垂れ流されるアムロちゃんの曲が次第に暴力性を帯びてくる」体感のプロセスとして、観客にものしかかる。アップテンポの多幸感溢れるラブソングを聴かされ続けるしんどさ、「常に恋してキラキラしていないといけない」圧力をかけられ続ける暴力性に、観客もまた晒されるのだ。表面的なポップさとは裏腹に、身体を賭した切実な希求がここにはある。



撮影:前谷開


2019/11/21(木)(高嶋慈)

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