artscapeレビュー

オープンしなけん2019 vol.2

2019年12月15日号

会期:2019/11/30

東京都品川区内の各地、大崎第一区民集会所(クロージングトークのみ)[東京都]

和田菜穂子らの東京建築アクセスポイントの企画により、品川区の建物公開を1日限りで行なうオープンしなけんのイヴェントに参加した。2019年の3月に始まり、今回で2回目だという。

ひとつは早朝、住宅街にたつ土浦亀城邸(1935)を見学した。考えてみると、学生の時以来なので、四半世紀以上ぶりの再訪となる。同じ住宅をこれだけ間をおいて再び足を運んだのは初めてかもしれない。やはり、だいぶ痛んでいるが、垂直方向に旋回していく空間の展開は十分に堪能できる。ミース・ファン・デル・ローエによるブルノの豪邸トゥーゲンハット邸(1930)と比べると、全然小さい建築だが、複雑な立体構成では決して引けをとらない。すなわち、狭い敷地内で展開される洗練されたデザインに、日本モダニズムの真骨頂を感じる。

もうひとつは、御殿山トラストシティの背後にひっそりとたつ磯崎新の茶室「有時庵(うじあん)」である(壁で隔てられているが、原美術館のすぐ近く)。外観は円と方形を組み合わせた磯崎らしい観念的な形態操作が目立つが、内部の空間は官能的なデザインだった。磯崎の両極のような特徴が、小さい茶室ゆえに凝縮して共存しているのが興味深い。



磯崎新が設計した茶室「有時庵」の外観。円と方形を組み合わせた観念的なデザイン。


「有時庵」の内部。茶道具を納める水屋の様子。


「有時庵」の内部。チタニウムの壁面が醸し出す官能的な空間デザイン。


「有時庵」の内部。貴人口から床の間を見た景色。

夕方からは、クロージングトーク「建築をひらく」のゲストとして登壇した。磯達雄、倉方俊輔の両氏からは、見学した建築の振り返りと同時に、イケフェス大阪の状況が語られた。また若原一貴からは、品川区の建物を悉皆調査し、様々な発見があったことも付け加えられた。

こうした建物公開は、ロンドンやシカゴなど世界各地で行なわれているが、筆者のレクチャーでは、日本のアートイヴェントを通じた建物公開や「open! architecture(オープン・アーキテクチャー)」の試みを取り上げた。前者では、主に筆者が芸術監督をつとめたあいちトリエンナーレ2013において、出品する建築家の住宅を公開したり、愛知県の建築ガイドを作成したことなどを報告した。そして後者では、建築史家の斉藤理が2008年から開始した「open! architecture」が、ときには音楽鑑賞などのプログラムを組み合わせていたことを紹介した。現在、公式サイト(http://open-a.org/)を見る限り、「open! architecture」の活動は停止中のようだが、その意志を継いださまざまな建物公開のイヴェントが日本各地で増えているのは頼もしい。

公式サイト:https://shinaken.jp/

2019/11/30(土)(五十嵐太郎)

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