artscapeレビュー
「みえないかかわり」イズマイル・バリー展
2019年12月15日号
会期:2019/10/18~2020/01/13
メゾンエルメス8階フォーラム[東京都]
まず、映像をやっている奥の展示室へ。日にかざして真っ白に見える1枚の紙。その紙の裏側に指を置くと、そこだけ陰になり、群衆の像が見えてくる。紙を裏返して同じように指を置くと、今度はアラビア文字が浮かび上がる。裏表に画像と文字をプリントした紙を日にかざしただけの映像だが、ひとつのものでも見る角度やなにかを介在させることで、まったく別のものが見えてくることを示唆している。
壁を見ると、山並みのような線が引かれ、その線上に細い針が何百本も刺してある。作品リストを見ると、素材は「ピン」とだけしか書いていない。よく見たら、線を引いているのではなく、壁に刺した針の影の先にまた針を刺して、その影の先にまた針を刺して……を繰り返すことで山並みの線をつくっているのだ。つまり線は影だった。
大きい展示室には入れ子状にもう1つ部屋がつくられ、その内部にいくつかの作品を展示しているのだが、これが絶妙の効果を生み出している。その好例が、壁に小さな板を立てかけ、裏から光を当てた作品。まるで高松次郎の《光と影》のミニチュアだが、裏の壁にスリットを入れて向こう側の光を採り入れているのだ(壁の裏側に回ることができるので確かめられる)。ガラス張りのため日光がさんさんと降り注ぐこのギャラリーの、いささか使いづらい空間特性を生かした逆転の発想だ。
もう1点、気になったのは、台の上に細かい砂が敷かれ、その上にくっきりボールの転がった跡だけが残されている作品。ちょっとシャレててトリッキーでいけすかないなあと思ったが、帰りにエレベーターに乗ったら、ガラス越しにボールがぽつんと置かれているのを発見! オチをつけられたようで、愉快な気分になった。ちょっとした思いつきから発想された作品ばかりじゃないかと思うけど、どれも遊び心にあふれていて楽しめる。作者のイズマイル・バリーはチュニジア出身。
2019/11/23(土)(村田真)