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宮城県美術館移転問題

2020年01月15日号

宮城県美術館[宮城県、仙台市]

突然、発表された宮城県美術館移転の件。発表前に美術関係者から上がった悲鳴を聞いていたが、あまりにも筋が悪い。すでに長期休館と改修工事も行なわれ、館のリニューアル方針も決まっていただけに、行政としても一貫性がない。実際、新しい場所に美術館を作るという話を最初に聞いたとき、職員もまさか移転だとは思わず、展示面積や収蔵庫を増やせるアネックスのようなものができるとイメージしたらしい。なるほど、県民会館の建て替えはしばらく前から話題になっていたが、病院跡地に敷地が決まり、ついでに美術館もいっしょに新築するというのでは、完全に巻き添えを食ったかたちである。おそらく、合築を促進する補助金ももらえるのだろう。


前川國男設計、宮城県美術館(1981)の外観


宮城県美術館に向かう階段からの眺望

確かに人口減少や企業の撤退により疲弊している地方自治体では、点在する公共施設を個別に維持管理する余裕がなく、老朽化に伴い、効率的な複合施設に変えるケースが認められる。例えば、新居千秋の設計による、図書館、ホール、プラネタリウムを備えた由利本荘市文化交流館カダーレなどがそうである。もっとも仙台は、そこまで財政が危機的な状況にあるわけではない。

宮城県美術館の外観


同じく前川國男が手がけ、宮城県美術館(1981)よりも古い福岡市美術館(1979)は、2019年の春、リニューアル・オープンした。弘前市にあり、もっと古い前川建築群も、保存しながら長く使うことが前提になっている。現時点で宮城県美術館は普通に使える施設であり、いますぐ移転する緊急性はない。ただし仙台は、弘前、岡山、福岡、埼玉、東京などが前川國男の建築を積極的に活用する目的で設立した「近代建築ツーリズムネットワーク」に未加盟だった。宮城県美術館が市立ではなく、県立だったことも一因なのかもしれない。


宮城県美術館の入口に向かう通路

ともあれ、宮城県美術館の今後を検討する有識者の懇話会に、そもそも美術や建築の関係者がひとりも入っていなかったことも問題だろう。球場裏の新しい場所になると、普段、美術館を訪れない人が来るようになるという根拠の薄い話ぐらいで、ほとんどメリットが思い浮かばないプロジェクトである。これでは、知事の思い出プロジェクトに美術館が利用されたというふうに考えるしかない。


宮城県美術館の内部

2019/12/11(月)(五十嵐太郎)

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