artscapeレビュー

いただきます ここは、発酵の楽園

2020年01月15日号

会期:2020/01/24~未定

UPLINK吉祥寺[東京都]

発酵と有機農業が1本の線でつながった。本作を観て、自分のなかで何かストンと腑に落ちる気がしたのである。私は自分の家で味噌や糠床を造る程度には、発酵食に親しんでいる。また無農薬・無肥料の米と野菜を定期購入もしている。つまり両者とも関心を持っていることは確かなのだが、なぜだか別々のものとして捉えている節があった。本作は「腸活エンターテイメント・ドキュメンタリー」と謳う、異色のドキュメンタリー映画だ。里山で園児自身が稲作や野草狩りを行ない、それらを用いた「野草給食」を軸に里山保育を実施する保育園をはじめ、書籍『奇跡のリンゴ』で有名な木村秋則や、「菌ちゃん先生」と呼ばれる吉田俊道らオーガニックファーマー、大学教授のインタビューや活動が紹介される。

©イーハトーヴスタジオ

本作が素晴らしいのは、その合間にアニメーションが挟まれていることだ。田畑と人間とが食物を通じて微生物でつながっていることを易しく表わすアニメーションである。愛らしい顔をした宇宙人のような姿の黄色い物体が微生物である。無数のその名も「菌ちゃん」が田畑の周りを飛び回る様子は、まさしく「ここは、発酵の楽園」をイメージさせる。いま流行りの腸活は、本来、人間の腸内だけで完結することではない。田畑に、いや地球上にいる微生物とつながってこそ成り立つのである。この目に見えない微生物を「菌ちゃん」という名でキャラクター化させていた点が良かった。

©イーハトーヴスタジオ

本作のアニメーションは、漫画『もやしもん』(石川雅之作)を思い出させた。菌が目に見えて会話もできるという主人公の農大キャンパスライフを描いた漫画である。同漫画でも菌が地球上のあらゆるところに存在し、さまざまな発酵食文化が育まれてきたことを教わった。こうして微生物や発酵に対して理解が徐々に深まると、バカらしく思えてくるのが除菌である。昨今は腸活ブームであると同時に、除菌ブームでもある。この両者が別次元で成り立っていること自体、人間のエゴを思わせてしかたがない。微生物と仲良く暮らすこと、それは太古から続いているサステナビリティの秘訣なのだ。



公式サイト:https://itadakimasu2.jp

2019/12/01(日)(杉江あこ)

2020年01月15日号の
artscapeレビュー