artscapeレビュー
動きの中の思索─カール・ゲルストナー
2020年01月15日号
会期:2019/11/28~2020/01/18
ギンザ・グラフィック・ギャラリー[東京都]
1950年代からスイスで発展したグラフィックデザインを「国際タイポグラフィー様式」または「スイス・スタイル」と呼ぶ。この時代にヘルベチカをはじめ、サンセリフ書体(線の端にひげがついていない書体)がいくつか生み出されたことが大きくその発展に影響しているという。ご存知のとおり、スイスは世界でもっとも古い永世中立国である。ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語と四つの公用語があり、欧州のなかでも多言語・多文化で構成された国であることがわかる。そんな社会背景のなかで、可読性や客観性、普遍性、ニュートラルを重視した書体やデザインが求められたことは想像に難くない。国際タイポグラフィー様式の発展を担った人物のひとりがヨゼフ・ミューラー=ブロックマン、そしてもうひとりがカール・ゲルストナーだ。
国際タイポグラフィー様式の特徴はいくつかあるのだが、そのひとつに文字を本文に限らず、グラフィックデザインの主要な要素に用いたことが挙げられる。ゲルストナーはこの手法を大いに用いたデザイナーだ。本展で展示された広告作品25点は特に圧巻だった。シルエット写真が切り抜かれ、大きくコラージュされたなかに、サンセリフ書体の文字が散りばめられた、実に自由で大胆なデザインなのだ。コラージュされているのは女性の横顔、透明なグラス、調理器具、自動車など……。モノクロームで表現されているのに、この軽やかさはいったい何だろう。やはり要因のひとつはグラフィックデザインの要素として用いられた文字なのだ。時には飲料から抜けていく炭酸ガスのように、ティーカップから立ち上る湯気のように文字が扱われていた。
私のような編集者の目からすれば、こんなふうに文字が躍っていることはそもそも禁じ手である。「可読性が悪い」と言って突き返すだろう。しかしゲルストナーの広告作品はそんな考えを吹き飛ばすくらい、熟れていた。これもサンセリフ書体が成す効果なのか。ところで、これら広告作品の構成は何かに似ている。そう、誤解を恐れずに言えば、漫画ではないか? 写真のコラージュはコマ割り的で、散りばめられた文字は吹き出しや効果音のようである。私が漫画に慣れ親しんだ世代だからこそ、この自由で大胆なデザインを好意的に受け止められるのかもしれない。
公式サイト:http://www.dnp.co.jp/CGI/gallery/schedule/detail.cgi?l=1&t=1&seq=00000749
2020/01/07(火)(杉江あこ)