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梅田哲也 うたの起源

2020年01月15日号

会期:2019/11/02~2020/01/13

福岡市美術館[福岡県]

サウンド、光、重力といった物理現象を取り込み、場所の特性とともに成立させるインスタレーションと、パフォーマンス作品を手がける梅田哲也の、美術館での初個展。看視スタッフの誘導によって鑑賞者が展示可動壁を押し、奥のホワイトキューブ空間で起こる「何か」を体験する作品《うたの起源》のほか、水の重量の移動によって上昇/下降する物体、明滅する光を惑星の回転のように壁に投げかけるライトの運動、回転する三つの拡声器から流れる人声や楽器の音が混じり合うハーモニックな音響など、さまざまな作品が美術館内のあちこちに仕掛けられている。メイン空間のほか、コレクション展示室、入口ロビーと階段、普段は入れない倉庫など複数の空間に作品が設置されているため、「館内ツアー」の側面ももつ。



[撮影:山中慎太郎(Qsyum!) 提供:福岡市美術館]


このツアー的な要素を「ギャラリーツアーを模したパフォーマンス」として昇華した公演が、年末の1日限りで開催された。出演者は、梅田自身に加え、ダンサー・振付家のハイネ・アヴダルと篠崎由紀子、捩子ぴじんら。美術館の外→梅田作品の点在する展示室内→バックヤードという三層構造でツアーは構成されている。

観客はまず、ガイド係の看視員に導かれ、美術館の「外側」を歩く。かつては博多湾の海底だったという説明を聞きながら隣接する庭を抜けて、裏側の搬入口へ。パフォーマーの存在感は、偶然居合わせた通行人と見紛うくらいのささやかさだ。搬入用のエレベーターに乗って館内に戻り、ガラス張りの通路を進むと、「樹のあいだに赤い実が見えますか」とガイドに問いかけられる。ガラス越しに何かを凝視する男が佇む。角度によって現われたり見えなくなったりする「赤い実」は、ガラスに反映した館内の赤いライトだ。コレクション展示室内に入ると、再び看視員のガイドにより、ダリや田中敦子、アニッシュ・カプーアの作品の解説が始まる。だが少し離れたところでは、3人の男女が謎めいた儀式風の所作を繰り返している。梅田作品を通過したあとは、階段を降りてバックヤード空間へ。機械空調室の重い扉を開け、暗闇をライトで探るパフォーマー。機械のたてるノイズ、内臓のように壁を這う太いチューブ、暗闇に明滅する無数の赤い光。天井板を剥がした開口部からは、何かが動く不可解な物音が響く。ドアのない狭い空間に誘導されると、突然明かりが消え、暗闇のなかで一瞬のハミングに包まれる。古美術の展示室で薬師如来像の解説を聞き、ピアノの爪弾きが聞こえるホールを通り抜け、入口ロビーに戻ったときには、胎内巡りを終えて「日常」に帰還したような感覚に包まれていた。



[撮影:山中慎太郎(Qsyum!) 提供:福岡市美術館]


普段は表から見えない「バックヤード」をあえて見せる。とともに、看視員など「裏方スタッフ」を「パフォーマー」として作品の要素に取り込む。内/外の空間を裏返し、知覚を研ぎ澄ませるよう促し、非日常を通り抜けて日常へと回帰する感覚を味わわせる。その意味で本公演は、劇場空間の機材や裏方スタッフの「運動」そのものを舞台上で見せながら非日常的なイリュージョンの旅を体験させた舞台作品『インターンシップ』の、「美術館バージョン」と言える。


公式サイト:https://umeda.exhb.jp/#event

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2019/12/27(金)(高嶋慈)

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