2021年10月15日号
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artscapeレビュー

ハマスホイとデンマーク絵画

2020年03月01日号

会期:2020/01/21/~2020/03/26

東京都美術館[東京都]

10年ほど前に日本に初紹介されたハンマースホイが、名前を短縮して再登場。書き手としては2字も省略できて経済的だが、なんとなく北欧的な重厚さが薄まって間が抜けた感じがしないでもない。ハマスホイ。そういえば前回はまったく無名だったため「北欧のフェルメール」などと宣伝されたが、今回は多少知られてきたせいか、オランダ絵画の黄金時代の巨匠の名を借りることもなく(と思って探したら、チラシの裏に小さく「北欧のフェルメール」と書いてあった)、デンマークの先輩画家たちとの抱き合わせで展覧会は成り立ったようだ。

でもこの時代を「デンマーク絵画の黄金期」と呼んだりするのは、やっぱりフェルメールの生きた17世紀オランダになぞらえたいからだろう。実際、19世紀後半のデンマーク絵画は、同時代の印象派などより17世紀オランダの風景画や風俗画に近いところがある。どちらもヨーロッパの北に位置し、海に面しているせいか殺風景だし、気候的にも家にこもりがちで、おのずと室内画が多くなったようだ。

展示は「日常礼賛─デンマーク絵画の黄金期」「スケーイン派と北欧の光」「19世紀末のデンマーク絵画─国際化と室内画の隆盛」、そして「ヴィルヘルム・ハマスホイ─首都の静寂の中で」の4部構成。まず、ハマスホイ以外で気になった作品を挙げると、ミケール・アンガの《ボートを漕ぎ出す漁師たち》と、オスカル・ビュルクの《スケーインの海に漕ぎ出すボート》がある。この2点は制作年こそ3年違うが、ほぼ同じ主題を描いており、とりわけ驚くのは、両作品とも左側で正面を見つめる漁師が、顔も体格もポーズも服装もほとんど同じであることだ。これは偶然だろうか、それともプロのモデルを雇ったのだろうか。

クレスチャン・モアイェ=ピーダスンの《花咲く桃の木、アルル》にも驚いた。どこか見覚えのある絵だなと思ったら、ゴッホの《桃の木(マウフェの思い出に)》とよく似ているのだ。解説によると、ピーダスンは南仏アルルでゴッホと親交を結び、ゴッホが制作した位置から数メートル離れた場所でこれを描いたらしい。ちなみに、ピーダスンはゴッホについて「私は最初、彼は頭がいかれているのだと思いましたが、しだいに彼の考えにも体系があることがわかってきました」と述べ、ゴッホはピーダスンのことを「もともと彼には厄介な事情があって、そのせいで仕事も変え、神経症にもなったのでそれを治療するために南仏に来ていた」と記している。お互い「いかれたヤツ」と思っていたらしい。

もう1点、ユーリウス・ポウルスンの《夕暮れ》も瞠目に値する。夕暮れを背景にした2本の木を描いた絵だが、完全にアウトフォーカスで捉えているのだ。こうしたアウトフォーカス気味の描写はある程度ハマスホイにも受け継がれており、この時代のデンマーク絵画の特徴ともいえるが、これほど焦点の合わないピンボケ絵画は見たことがない。ついでにもうひとつ、ハマスホイも含めてなぜか後ろ姿を描いた絵が多いのも気にかかる。ざっと数えると、斜め後ろも含めて13点あった。そういえばノルウェーの画家ムンクにも後ろ姿の絵が多かったような気がする。これは北欧絵画の特徴か。

ようやくハマスホイに行きついたぞ。ハマスホイの作品で注目したいのは、レリーフの模写が2点あり、どちらも正面から描いていること。絵画を模写するとき斜めから描くバカはいないが、レリーフを模写するなら、立体感を出すために斜めの角度から描写してもおかしくない。でもハマスホイは正面から捉えることで平面性を意識させる。室内風景を描くときも同じく、壁に対して斜めではなく直角に視線を投げかける。だから壁と天井、壁と床の境界線は水平に引かれ、柱または壁の垂直線と直角をなす。この水平線と垂直線の織りなす幾何学的構成により画面の矩形性が強調されるが、これこそハマスホイとフェルメールの画面に共通する絵画の特性にほかならない。

2020/02/15(土)(村田真)

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