artscapeレビュー
土田ヒロミ写真展「Aging 1986-2018」
2020年03月01日号
会期:2020/02/05~2020/03/01
ふげん社[東京都]
写真ギャラリー、ブックショップ、カフェ、プリント・ラボラトリーを兼ねたふげん社が、東京・築地から目黒に移転した。スペースもひと回り大きくなり、その活動がますます充実したものになりそうだ。3階のギャラリーでは、リニューアル・オープン展として、土田ヒロミの「Aging 1986-2018」が開催された。オープニング企画にふさわしい充実した内容の写真展である。
「Aging」はまさに現在進行形のセルフ・ポートレートのシリーズといえるだろう。土田は1986年から、毎日クローズアップで自分の顔を撮影し始めた。それから30年以上もその行為を続け、いまだに継続中である。言葉にすると簡単そうだが、自分でやることを考えれば、それが途方もない作業であることがわかる。日付を付して展示されている顔写真の群れを見ると、40歳代のまだ精悍さを残した男性が、次第に老化していくプロセスが、感情移入を排して淡々と記録されていることに感動を覚えずにはおれない。展覧会に寄せた文章で、生物学者の福岡伸一が、このシリーズは「生命とは何か?」「時間とは何か?」という「大きな問いかけ」だと書いているが、まったくその通りだと思う。
プリントの途中に空白の部分があるのだが、それは単純に撮り忘れたことも含む「撮れなかった」日を示している。2008年にかなり大きな空白があるが、それはデジタルデータを消去してしまったということのようだ。そのような「アクシデント」をも含み込んでいることが、この作品の「生の記録」としてのリアリティをより増している。「死ぬまで」続けられるという壮大なプロジェクトが、完結したときにどんな眺めになっているのか、想像しただけでワクワクさせられる。個人の作業としては、空前絶後のものになることは間違いない。
2020/02/08(土)(飯沢耕太郎)