2021年10月15日号
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artscapeレビュー

師岡清高写真展:「刻の表出」人生においてどれほどの出会いがあるのだろうか。

2020年03月01日号

会期:2020/02/13~2020/03/28

キヤノンギャラリーS[東京都]

1948年生まれの師岡清高は、大阪芸術大学美術学科写真専攻で岩宮武二、天野竜一に師事し、卒業後に専任講師を経て同大学教授となった。以来、2019年3月に退職するまで教職にあったのだが、その間もずっと写真作品の制作、発表を続けてきた。今回のキヤノンギャラリーSで展示した「刻の表出」のシリーズは、大学退職後にパリで一挙に撮り下ろしたものだという。あらためて、写真作家として再出発するという表現意欲のあふれる清新なカラー作品、約70点が並んでいた。

師岡にとって、写真作品の制作とは「知への憧れ」であり、「新たな出会いにトキメキを覚え」ることだという。主に縦位置で、パリの風物を切り取った作品を見ると、奈良原一高や川田喜久治が1960年代にヨーロッパで撮影した写真群を思い起こす。異国への旅立ちが、日常の世界から非日常の領域への通路を開き、見慣れた事物が、奇妙に魔術的な相貌を身に纏って見えてくる。そんな新鮮な感覚の芽生えが、師岡の作品一点、一点に刻み付けられているように感じた。今回はパリを撮影したわけだが、奈良原一高がヨーロッパから帰国後に、日本の伝統文化に回帰して『ジャパネスク』(毎日新聞社、1970)をまとめたように、これから先は、師岡も日本に被写体を求めることがあるかもしれない。

また、会場の一隅に展示されていた、石鹸水を使ったという抽象作品も気になる。こちらは、外に向いていた視線を「私」の内面世界へと転じたものだ。この個展を契機として、内と外とを行き来する、より大きな作品世界が形をとりつつあるのではないだろうか。

2020/02/18(火)(飯沢耕太郎)

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