2020年12月01日号
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artscapeレビュー

FUKAIPRODUCE羽衣『スモール アニマル キッス キッス』

2020年09月15日号

会期:2020/08/28~2020/09/07

吉祥寺シアター[東京都]

生/愛の悦びと苦さをキッチュに歌い上げる「妙ージカル」で独自の世界を描き続けてきたFUKAIPRODUCE羽衣。その新作はセリフも含めたほぼ全編がリップシンク=口パクによって演じられるチャレンジングな作品となった。生を全身で体現するような俳優たちの歌唱がその大きな魅力であるFUKAIPRODUCE羽衣にとってリップシンクの導入は新型コロナウイルスへの感染防止のための苦肉の策にも思えたが然にあらず。俳優たちは歌に振り向けるはずのエネルギーのすべてをその体の運動へと変換することでいつも以上にダイナミックに舞台で躍動し(振付:木皮成、根本和歌菜)、一方でリップシンクならではのギミックがヒトという生き物の業を抉り出す。ソーシャルディスタンスが叫ばれヒトとヒトとが距離を取らざるを得ないいまだからこそ、生きることの孤独とそれゆえに他者を希求する姿を描くFUKAIPRODUCE羽衣の妙ージカルにはより一層胸に迫るものがあった。

最初の場面=1曲目のタイトルは「ハナレバナレノアダムトイブ」。ある日の夜明け。目覚めた男(緒方壮哉)は海の向こうの島に見えた女(佐々木由茉)に恋をする。一方、女もまた海の向こうに見えた男に恋をしていた。互いの声も聞こえない距離は縮まらず、思いだけが募っていく。

[撮影:金子愛帆]

全12場面=曲からなる『スモール アニマル キッス キッス』は一つひとつの場面がほぼ独立した物語を持つ、言わばオムニバス形式の作品となっている。全体は夜明けから次の夜明けまでの一日の時間のなかにゆるやかに配置され、それは同時に人の生死のサイクルに重ねられているようでもある。冒頭の場面が男女の出会いを描いているのは、それが生命の誕生以前の「はじまり」の瞬間だからなのかもしれない。11曲目「レイワダンシングクラブ」でその営業時間が宇宙の始まりから終わりまでだと告げられるように、一日が積み重なり、ヒトの生死が積み重なることでより大きな時間のサイクルは紡がれていく。ヒトはその大きな時間の一瞬を生きる小さな動物にすぎない。

2歳の息子(平井寛人)を残してママ(松本由花)に出ていかれてしまったパパ(澤田慎司)。「親友」との待ち合わせのために世界中を旅するがいつまでも会えない男(岡本陽介)。高級リゾートホテルのプライベートビーチで優雅な日々を過ごす金持ちの女(鯉和鮎美)とアルバイトの大学生(村田天翔)etc etc。脈絡なく連なる場面にはロマンスの気配もなくはないが、どちらかと言えば孤独や虚無が強く感じられ、ほとんどの場面では何か特別なことが起きることもない。

[撮影:金子愛帆]

[撮影:金子愛帆]

リップシンクが抉り出すのはほかの生き方を選べない、選べなかったことの悲哀だ。9曲目「midnight darling」で男(日髙啓介)は「自分の半分の歳の女性と一緒に死にたいって」「昔からずーっと思ってた」と言う。それを聞いた女(岩田里都)の「最低ー」という言葉の通り、紋切り型のダメ男。だが男はそう生きることしかできなかった。

紋切り型を生きるしかないことは、ありきたりの生をなぞってしまうことは不幸なことだろうか。だが、流れてくるセリフや音楽に合わせて動くことしかできない俳優たちは、その枠のなかで懸命に「生きて」いた。10曲目「夜中の虹」で俳優全員が揃って「生まれてきたらもう なんもかんも手遅れ」と歌いながらカエルのように跳び続ける場面は圧巻だ。何度も跳ぶうちに体は疲弊し、まともなカエルジャンプもリップシンクもできなくなってくる。それでも彼は、彼女は、ぐちゃぐちゃになりながらも跳び続ける。そのエネルギーの爆発が胸を打つ。やがて疲れ切った俳優たちは跳ぶことをやめ、リップシンクもやめてしまう。だが歌は続く。歌に添うことをやめ物語から外れた俳優たちは、しかしそれでもそこにいる。ただそれだけのことがまた強く胸を打つ。

ラスト12曲目は「ハナレバナレノアダムトイブreprise」。ここまでほぼすべての場面がリップシンクで演じられ、佐藤こうじの優れた音響設計と俳優たちの巧みさも相まって、リップシンクはときにほとんど生歌と聞き分けられないほどの完成度で観客に届けられてきた。だがそれでも、だからこそより一層、この場面で発せられる生の声は強い。海に隔てられ互いに届かない声を、それでも届けようと精一杯の声をあげ続ける二人。「おーい」「そっち、行っても、いーいー」「聞こえなーい」「今、行くよー」。FUKAIPRODUCE羽衣の歌には、孤独に発せられる声が届くようにとの願いが込められている。

[撮影:金子愛帆]


公式サイト:https://www.fukaiproduce-hagoromo.com/

2020/08/29(土)(山﨑健太)

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