artscapeレビュー
武生、鯖江、三国、《恐竜博物館》、長浜をまわる
2020年09月15日号
[福井県]
法事のため、2カ月連続で福井に出かけることになった。先月は三方にある内藤廣の《年縞博物館》を見学したが、今回はまず武生と鯖江の近代建築群をまわることにした。前者は初めての訪問だったが、アール・ヌーヴォー風の意匠が入る《武生市公会堂記念館》、アーケードに面した《旧大井百貨店》、《旧井上歯科医院》など、興味深い建築が多い。もっと時間をかけて再度訪れたい地方都市である。地方では今でも古い写真館がよく残っているが、鯖江の《恵美写真館》の創立は明治末にさかのぼり、国の有形文化財に指定されていた。なるほど、和洋折衷の建築として、きわめてユニークな細部があちこちに散りばめられている。
三国の《みくに龍翔館》は、お雇い外国人の技師エッセルが手がけた5階建て八角形の小学校を1981年に再現し、郷土資料館として用いた建築だ。ただ展示には、一番知りたいかつての木造小学校の情報がないのは、残念である。ちなみに、エッセルの五男が有名な画家エッシャーだったことから、三国はトリックアートのコンペを実施しており、最上階に展示されていた入選作品はおもしろかった。
さて、ずっと訪れる機会がなかった黒川紀章の《福井県立恐竜博物館》をついに見学した。内藤廣が設計したえちぜん鉄道の福井駅から電車とバスを乗り継ぎ、約1時間。遠くからも恐竜の卵のような銀色のヴォリュームが目立ち、さらに黒川のサインというべきガラスの円錐形も付随する。ただし、館に近づくと形態は見えなくなり、内部に入ると、むしろ過去にさかのぼるかのように、エスカレーターによって一気に地下の空間へと導く。なるほど、これだけ多くの恐竜の骨が展示された施設は見たことがない。子供連れの家族が遠くからやってくるのも、うなずける。また一部の恐竜はアニマトロニクスによって動き、『ジュラシック・パーク』さながらのエンターテインメント的な要素も備えていた。
福井からの帰りには、久しぶりに長浜に立ち寄り、近代建築の街を散策した。そのひとつの旧銀行をリノベートした《海洋堂フィギュアミュージアム黒壁 龍遊館》では思いがけず、再度恐竜や古代の生物群を見ることになった。ここでは会社の歴史や造形師を紹介しつつ、アニメや漫画のキャラクター以外にも、森羅万象のさまざまなモノをフィギュア化した作品が展示されている。ほどんとメタ・ミュージアムとでもいうべき多彩さだった。
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福井県年縞博物館、若狭三方縄文博物館|五十嵐太郎:artscapeレビュー(2020年08月01日号)
2020/08/28(金)(五十嵐太郎)