artscapeレビュー

気仙沼、南三陸、女川をまわる

2020年09月15日号

気仙沼では、トレーラーハウスを活用した飲食店街《みしおね横丁》が登場していた。ここは銭湯、イスラム教の礼拝所、インドネシア料理店なども入り、想像以上にプログラムはヴァラエティに富む。地元で働く外国人を意識したものだという。また女川では駅の横にカラフルなトレーラーハウスが並ぶ《ホテル・エルファロ》(2017)で宿泊した。これは津波で旅館を流された女将たちが始めたものだが、室内はとても快適である。ともあれ、建築よりも時間をかけずに設置できるトレーラーハウスの出番があるのは、被災地ゆえの状況だろう。


《みしおね横丁》の礼拝所


《ホテル・エルファロ》

毎回、気仙沼では《リアス・アーク美術館》に立ち寄っていたが(同館にて学芸員の山内宏泰からうかがった2011年3月11日当日の話は、個人的にあいちトリエンナーレ2013のコンセプトにもつながった)、今回は時間の関係で飛ばし、《シャークミュージアム》(2014、リニューアルオープン)を初めて訪れた。本来はサメに特化した展示施設だが、ここも被災しており、導入部にメッセージ・テーブルがある「絆」ゾーンや、映像や写真による「震災の記憶」ゾーンが設けられていたからだ。すなわち、新規につくられた施設でなくとも、既存の施設も震災の後、プログラムが書き換えられているのだ。


《シャークミュージアム》内の「絆」ゾーン

さて、続く南三陸のエリアは、隈研吾の建築だらけだった。まず、《ハマーレ歌津》(2017)と《さんさん商店街》(2017)は、いずれも被災地における仮設的な木造店舗群である。そして有名な震災遺構となった《旧防災対策庁舎》は、かさ上げによって現在の地表面からだいぶ下になったが、これをとりまく壮大なランドスケープや伝承施設が、隈によって整備されていた。すでに《旧防災対策庁舎》の前には、古墳のような丘がそびえたっている。2021年のオープン予定らしい。


隈研吾《ハマーレ歌津》


隈研吾《さんさん商店街》


震災遺構となった《旧防災対策庁舎》


南三陸のもうひとつの震災遺構《旧ホテル観洋》、建物の左上にある青いサインで、当時の津波の高さが示されている

夜に到着した女川は、坂茂が設計した駅舎から、まっすぐ海に向かって軸線が走り、東利恵が手がけた《シーパルピア女川》の商店街がそれを挟む。坂は、女川の避難所になった体育館におけるパーティション、野球場に設置されたコンテナを三層に積んだ仮設住宅、そして復興の要となる駅を担当しており、これは被災後から同じ建築家がひとつの街にずっと関わった、希有な例だろう。


坂茂《女川駅駅舎》

2020/08/13(木)(五十嵐太郎)

2020年09月15日号の
artscapeレビュー