artscapeレビュー
盛岡の建築群をまわる
2020年09月15日号
[岩手県]
毎年、8月の中旬は海外を旅行しているのだが、今年はそれができなくなった。1月にニューヨークに出かけてから、もう半年以上も渡航していないのは、個人的にはおそらく学部生の頃以来ではないだろうか。逆に今年はこまめに機会を見つけて、これまでなかなか行く機会がなかったエリアも含めながら、日本の地方をまわることにした。そんなわけで8月中旬は、久しぶりにまとめて被災地周辺の東北エリアに足を運んだ。岩手県のエリアは、4年ぶりになる。
仙台から盛岡に入り、初日はいわゆる被災地ではないが、市内と《オガール紫波》を見学した。後者は、地方の駅前開発プロジェクトの成功例としてよく知られている。特筆すべきは、公民連携の仕組みもさることながら、デザイナーがきちんと入っていること。佐藤直樹、ランドスケープの長谷川浩己、そして建築家の松永安光と竹内昌義である。バレーボール専用の体育館と宿泊所、図書館と連結する情報交流館や店舗、マルシェ、広場、エネルギーステーションなど、ユニークなプログラムが実現しており、修士設計などの課題ならばともかく、本当にこういう空間が実際に成立していることに驚かされた。おそらく、大都市の巨大資本が入るプロジェクトだと、リスクを恐れ、逆にそれほど実験的なプログラムとならず、大手のゼネコンや設計組織が入り、よくあるような開発になるだろう。とすれば、地方だからこそ、思い切ったまちづくりに踏み切ることができたのではないか。
盛岡に戻り、谷口吉郎による《原敬記念館》(1958)や、菊竹清訓の図書館をリノベーションした《もりおか歴史文化館》(2011)(内部は空間の特徴があまり残されていないが)をまわり、最後にNoMaDoSの《仕事場≒街~東北の通りオフィス~》(2020)を訪問した。これは東北大の建築出身のOB、OGらが中心となり結成した特殊な事務所が手がけたものである。彼らは東京と盛岡に拠点を置き、「終わらない自由研究」をうたう。盛岡の作品は、細長いコンクリート造の既存躯体の内側に、木造の部屋や階段を挿入したリノベーションである。土地の値段が高い東京と違い、空間に余裕があることから、フレキシブルな活用が可能なシェアオフィスとなっていた。
2020/08/09(日) (五十嵐太郎)