artscapeレビュー
石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか
2020年12月01日号
会期:2020/11/14~2021/02/14
東京都現代美術館[東京都]
企画展示棟の2フロアを使った大規模な回顧展。「血が、汗が、涙が」というタイトルを聞くと、根性ものかと勘違いしそうだが、ま、確かに根性が入っていることは間違いないが、中身は洗練されたデザイン展だ。
石岡瑛子のイメージは世代によって異なるかもしれない。ぼくはまず、前田美波里を起用した資生堂のサマー・キャンペーンに触れ、「裸を見るな。裸になれ。」「モデルだって顔だけじゃダメなんだ。」などのコピーで知られるパルコや、本を雑に扱うので嫌いになった角川文庫のポスターが記憶に残る。あとはせいぜいレニ・リーフェンシュタールの『ヌバ』や、コッポラ監督の『地獄の黙示録』のポスターを知ってるくらいで、これらはすべて60年代末から80年代までの活動。この展覧会でいえば、3部構成のうちほぼ第1部に収まってしまう。展示面積でいうと全体の5分の1にも満たない。
その後のことはほとんど知らず、すっかり過去の人だと思っていた。でも2部、3部を見ると、マイルス・デイヴィスのアルバム・パッケージ、グレイス・ジョーンズのコンサート、ビョークのミュージック・ヴィデオ、オペラの『ニーベルングの指環』の衣装デザイン、北京オリンピックの開会式、シルク・ドゥ・ソレイユのサーカス、映画『白雪姫と鏡の女王』など、質的にも量的にもとんでもない仕事をしている。ただ海外での活躍が多かったし、ポスターやテレビCMのようなマスメディアではないし、アートディレクションという裏方の仕事なのであまり目立つことはなかった。というより、ぼくが疎いだけだったのかもしれない。
後半は衣装デザインが多いが、その特徴は非時代的で無国籍的。あえていえば、古代ギリシャ風にも見えるし、アジアの民族衣装にも見えるし、キモノにも見える。その意味では、日本人によるネオジャポニスムといえなくもない。『スター・ウォーズ』に出てくるアミダラ姫などの衣装やメイクも、石岡デザインを参照したんだろうか。その影響力は想像以上に大きかったのかもしれない。
2020/11/13(金)(村田真)