2021年09月15日号
次回10月1日更新予定

artscapeレビュー

田口るり子写真展「CUT OFF」

2020年12月01日号

会期:2020/10/29~2020/11/15

コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]

今年6月にコミュニケーションギャラリーふげん社で開催された「東京2020 コロナの春」展は、コロナ禍の緊急事態宣言下の日本における20人の写真家たちの状況を、彼らが撮影した写真によって浮かび上がらせた好企画だった。田口るり子の「CUT OFF」は、その出品作の中でも特に印象に残った作品である。同展への出品が、あらためてふげん社での個展に結びついたのは、とてもよかったと思う。

田口は2002年に愛知県名古屋市から上京し、2003年に富士フォトサロン新人賞を受賞するなど、写真家として将来を期待されていた。だがその後、音楽関係の雑誌などで活動を続けていたものの、写真作品の発表は途絶えてしまう。2010年代になって作家活動を再開したが、なかなか手応えのある作品を発表することはできなかったようだ。

田口は「コロナの春」の企画に誘われた時、ふと思いついて、美容師に髪を切ってもらう行為を撮影しようと考えた。裸になって自室で撮影するという発想も、自然に湧いてきた。結果的にこのシリーズは、自発性と偶然性とが、思いがけない場面を生み出していく写真特有の表現のあり方を、見事に体現した作品になった。展覧会のリーフレットに田口が書いた「爪や髪を切ると、切った瞬間にそれは自分から離れて不要なものとなり、ゴミとなり、汚いものに変わる」というのは、たしかに考えてみれば不思議なことだ。異物としての髪の毛は、独特の物質的なエナジーを発している。そのことが、写真からしっかりと伝わってきた。「髪を切る」という行為は、古来イニシエーションの儀式でもある。田口のこのシリーズも、写真家として次のステップに進んでいくいい機会になるのではないだろうか。

この「脱皮」の写真をきっかけにして、彼女が新たな写真の世界を作り上げていくことを期待したい。「人は、断ち切り、取り入れ、断ち切る、を繰り返し進んでいく」(田口のコメント)。この作品で掴んだ確信をぜひ次に活かしていってほしい。

2020/10/31(土)(飯沢耕太郎)

文字の大きさ