2021年09月15日号
次回10月1日更新予定

artscapeレビュー

吉川直哉「Family Album」

2020年12月01日号

会期:2020/10/12~2020/10/24

ギャラリーナユタ[東京都]

吉川直哉のような1950-60年代生まれの世代は、家族アルバムに強い思い入れがあるのではないだろうか。父親が折に触れて家族の写真を撮り、母親がそれらにキャプションを付して、アルバムのページに貼りつける。そんな分厚い家族アルバムが、どんな家にも1冊や2冊はあったものだ。だが、1980年代頃から写真を撮る量が増えてくると、アルバムに貼る余裕もなくなり、90年代以降はデジタル化によってプリントすらされなくなった。だから、吉川が母親の死や東日本大震災を契機として、自分の家のアルバムの写真を複写し、「自分についての物語」を確認しようとした気持ちはよくわかる。家族アルバムが、記憶をつなぎとめておくアーカイブの役目を果たしてきたのだ。

だが、今回ギャラリーナユタで展示された「Family Album」シリーズは、単純な複写ではない。写真を斜めに傾け、その一部にピントを合わせて残りをボカしたり、画像の一部だけを切りとったりすることによって、家族の記憶は再構築され、新たな「物語」が立ち上がってくる。それは優れて批評的な写真読解の試みといえるだろう。もうひとつ重要なのは、この「Family Album」が、今年6月に東京・松原の半山ギャラリーで展示された「HOME 家」シリーズと対になる作品だということだ。そちらの展示は見逃してしまったが、展覧会に合わせて刊行された写真集『Family Album』(私家版)には、両シリーズが掲載された。もはや家族の住処ではなくなった奈良市の「家」にカメラを向けた「HOME」では、吉川は、いわば記憶の器としての「家」そのものの姿を浮かび上がらせるように、その細部を克明に描写している。

大阪芸術大学写真学科で教鞭を執り、2016年には韓国・大邱の大邱写真ビエンナーレの芸術監督を務めた吉川は、今回の連続展示で、写真家としての新たな水脈を見出したようだ。

関連レビュー

吉川直哉 展 ファミリーアルバム|小吹隆文:artscapeレビュー(2014年11月01日号)

2020/10/24(土)(飯沢耕太郎)

文字の大きさ