artscapeレビュー

アール・ブリュット2020特別展 満天の星に、創造の原石たちも輝く ─カワル ガワル ヒロガル セカイ─

2020年12月01日号

会期:2020/09/05~2020/12/06

東京都渋谷公園通りギャラリー[東京都]

石原元都知事が設けた現代美術の拠点のひとつ、トーキョーワンダーサイト渋谷が、小池都知事によって東京都渋谷公園通りギャラリーと改められ、アール・ブリュットを普及していく場として再出発した。まあ現代美術もアール・ブリュットも境界線上に位置するキワモノ的存在である点、大して変わりはないんで、どっちでもいいけど。今回は「アール・ブリュット2020 特別展」として、日本人16人、海外から2人が出品。しかしキュレーターの名が明記されておらず、誰が、どういう基準で選んだのかわからない。

出品者は、各地で開かれるアール・ブリュット展の常連も多く、本岡秀則、魲万里絵、澤田真一らの作品は何度見ても驚かされる。なかでも感心するのは、本岡の《電車》。ただひたすら電車の正面を描き連ねたものだが、おもしろいのは、初めはフツーに描いていたのに、「いっぱい描きたかったから」という理由で1台1台の幅が次第に狭まり、ギューギュー詰めのまさに「満員電車」になったこと。別の紙に描けばいいものを、1枚にいっぱい描きたいという欲望を優先してフォルムを変えてしまったのだ。美濃部責夫の作品は抽象画のように見えるが、作画には独自のルールがある。まず着席する。また立って紙を持ってきて再び着席。また立ってペンを持ってきて着席、を繰り返す。いざ描くときは、まず小さな枠を描き、その中に仕切りのようなものを描き、最後に細かな縦線で埋め尽くす、という工程を何度も繰り返して画面を埋めていく。描く手順も配色もあらかじめ決まっているのだ。

Yasuhiro K.は札幌のテレビ塔から見た同じ風景6点を展示。それぞれ写真を元に1997年から2003年にかけて制作したもので、遠近法的に正確に作図されている。不可解なのは、どれも画面の左隅から描いていくのだが、最初のころは全体を描いているのに、徐々に右上まで描ききれなくなり、最後のほうは左隅の一部しか描いていないこと。同じ風景が徐々にフェイドアウトしていくのだ。原塚祥吾の《繋がってゆくまち》にも感心する。最初はチラシの裏に想像の街を細かく描いていたが、やがて上下左右に1枚ずつ紙を継ぎ足し、街の風景を広げていく。まるで高度成長期の都市開発を追体験しているよう。10歳のころから始め、現在14枚目。このまま死ぬまで続けたらどんな想像の大都市が築かれるやら。

いずれの作品もわれわれの常識のはるか上空を飛んでいる。凡人はそれを見上げてただ驚嘆するだけ。ひとつ難点をいえば、「満天の星に、創造の原石が輝く」ってタイトルがクサイ。誰がつけたんだ? 「難点の星」、なーんてんね。

2020/10/28(水)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00054542.json l 10165769