2021年09月15日号
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artscapeレビュー

佐賀町エキジビット・スペース 1983–2000 ─現代美術の定点観測─

2020年12月01日号

会期:2020/09/12~2020/12/13

群馬県立近代美術館[群馬県]

美術館でオルタナティブ・スペースの展覧会が開かれるのは珍しい。そもそも日本ではオルタナティブ・スペース自体が少なかったし、また、オルタナティブ・スペースという存在が、権威主義的な美術館や商業主義的なギャラリーを否定するところから始まったものだからだ。でもじつは、権威主義的な美術館や商業主義的なギャラリーというのは欧米の話であって、日本の美術館にはよくも悪くも権威はないし、ボロ儲けしているギャラリーもなかった。そのうえ日本には貸し画廊という独自の制度があり、とりあえず美術家の登竜門として機能していた。ま、そんなわけで、日本にはオルタナティブ・スペースが育たなかったのだ。

とはいえ、皆無だったわけではない。1980年ごろからそれらしきスペースが倉庫の集中する湾岸周辺に出現する。LUFT、🌀(クルクル)、ほかにもあったような。でも「ベイエリアのロフト」とファッショナブルに消費され、あるいは再開発で取り壊され、一時的な現象に終わってしまう。ただひとつ残ったのが、佐賀町エキジビット・スペースだった。隅田川近くに1927年に建てられた食糧ビルの講堂を改装した「展示空間(エキジビット・スペース)」で、広々した空間と高い天井、そしてアーチ型の窓とプロセニアムが特徴的だった。ここが1983年から17年間続いた理由は、なにより明確なヴィジョンと実行力を持った小池一子さんが主宰していたからだ。

彼女はここを、いままさに才能を発揮しつつある新進作家(エマージング・アーティスト)の発表の場にしようと奔走。ここで発表したエマージング・アーティストは、野又穫、剣持和夫、吉澤美香、大竹伸朗、森村泰昌、堂本右美、内藤礼、日高理恵子ら枚挙にいとまがない。佐賀町に対する評価はこうしたエマージング・アーティストに偏りがちだが、それだけではなかった。横尾忠則やキーファーといった大御所の個展もやったし、ファッションや建築、デザインなどジャンルも多彩だったし、フェミニズムやLGBT関連の企画展も開いた。先鋭的というより、むしろ玉石混交、清濁併せ呑む多様性こそ佐賀町の魅力だったと思う。「現代美術」の狭い枠からはみ出すこうした多彩な活動は、ファッションやデザイン界で仕事をしていた小池さんの顔の広さを物語ると同時に、彼女自身がアソシエイト・キュレーターを務めていた西武美術館とも通じるものがある。

展示は、計106回に及んだ展覧会の全記録写真と、当時の作品を中心とする25作家による41点の出品。巨大でクセのある空間が特徴だっただけに、当時は剣持和夫や内藤礼のような展示空間全体を使ったインスタレーションが話題になったが、その場限りで解体されて見ることができない。せめて「展示空間」の一部でも再現してほしかったが、地方の公立美術館では難しいのか。そういえば、なんで群馬でやるんだろう?

2020/11/11(水)(村田真)

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