artscapeレビュー

中西敏貴「Kamuy」

2020年12月01日号

会期:2020/09/19~2020/10/31

キヤノンギャラリーS[東京都]

昨年1月~3月にキヤノンギャラリーSで開催されたGOTO AKIの写真展「terra」を観た時にも感じたのだが、風景写真の新世代が胎動しつつあるようだ。彼らの仕事は、基本的に「花鳥風月」の美意識に則って、箱庭的な日本の自然を細やかに描写してきた前世代とは一味違うスケール感を備えている。今回「Kamuy(カムイ)」展を開催した中西敏貴も、その有力な作り手の一人といえるだろう。

1971年に大阪で生まれた中西は、1989年ごろから北海道に通うようになり、2012年に撮影の拠点を美瑛町に移した。それ以降に撮影された本シリーズは、北海道の森羅万象に先住民族のアイヌが信奉していたカムイ(神)の存在を感じるという彼の思いを、「気配の集積としての風景」として投影した厚みのある作品群となった。

注目すべきなのは、彼が原生林で見出した木の肌、地衣類、菌類などが作り上げる自然のパターンを、アイヌや縄文人の造形物の紋様と結びつけて撮影していることだ。たしかに太古の昔から、人々は自然の造形を彼らの土器や織物や装飾物に取り入れてきたわけで、中西の試みは写真を通じてその歴史を辿り直そうとしているようにも見える。このところ、日本の先史時代への注目が増していることでもあり、中西の仕事も、自然環境だけではなく民族学や文化人類学の領域に伸びていってもいいのではないだろうか。北海道という魅力的なトポスに根ざした、より広がりと深みを備えた写真の世界をめざしていってほしい。

2020/10/24(土)(飯沢耕太郎)