2021年09月15日号
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artscapeレビュー

第16回死刑囚表現展

2020年12月01日号

会期:2020/10/23~2020/10/25

松本治一郎記念会館[東京都]

会場は、部落解放の父とも呼ばれた松本治一郎記念会館。玄関を入ると佐藤忠良による松本の銅像が立っている。差別をなくそうとした人の銅像というのも、なんか違和感があるなあ。本人が望んだわけではないだろうけど。その5階の会議室に簡易な仮設壁を立て、作品を展示している。主催は、死刑制度について考えるために設立された「死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金」。死刑囚の作品展を始めたのは2005年からで、これまで谷中のギャラリーや鞆浦のミュージアムなどで目にしてきたが、そのつど出品者が異なっている。おそらく刑が執行されたり、新たに死刑を宣告されたりで、少しずつ入れ替わっているのだろう。もうそれだけですくんでしまう。

作品の大半は紙に色鉛筆や水彩で描いた絵だが、俳句もあれば、書画のように絵に文字を加えたものもある。内容的には、仏画や神像などの祈り系、花や富士山などの癒し系、名画やマンガなどの模写系、欲求不満のエロ系、理解不能なアウトサイダー系、自説を訴えるアジ系などに分けられる。パズルやエッシャー的な位相空間を描いた秋葉原通り魔事件の加藤智大はアウトサイダー系、ピカソやマティスを意識した露雲宇流布(ローンウルフ?)は模写系、安楽死の法制化や大麻合法化などを主張した相模原殺傷事件の植松聖はアジ系、ケバい化粧の女性ヌードの余白に粉砕、弾劾、革命といった勇ましい言葉を書き連ねた保険金目的替え玉殺人事件の原正志は、エロ系+アウトサイダー系+アジ系の合体か。

出品は18人による120点ほど。それがさほど広くない会議室に並んでいるため、観客もけっこう密になる。だいたいこんなに人が入るのは(しかも若者が多い)、死刑制度に対する関心が高まったからではなく、植松の作品が展示されるとネットで話題になったかららしい。植松は「より多くの人が幸せに生きるための7項目」と題し、前述のように安楽死や大麻のほか、環境問題や美容整形、軍隊などについて書き連ねた。これが異色なのは、背景に墨を散らせているとはいえ、明らかに「作品」というより扇動的なメッセージとして読めるからだ。もちろん作品に扇動的なメッセージを込めて悪いはずはないのだが、しかしそれが大量殺人を犯した死刑囚のものであり、それを見に若者たちが集まるのを目の当たりにすると、やはり小心者のぼくなんかはとまどってしまうのだ。死刑囚に表現の自由はあるのか? 人権はあるのか? そもそも死刑制度は必要なのか? そんな問題提起的な展覧会。

2020/10/24(土)(村田真)

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