artscapeレビュー
川田喜久治「エンドレス マップ」
2021年03月01日号
会期:2021/01/20~2021/03/13
PGI[東京都]
かつて写真集として刊行したり、写真展で発表したりした作品を「改訂」し続ける写真家がいる。東松照明もその一人で、『〈11時02分〉NAGASAKI』(写真同人社、1966)や『太陽の鉛筆』(毎日新聞社、1975)に収録した写真を再プリントし、その掲載順、レイアウトなどを変更し続けた。1959年に、東松ともに写真家グループVIVOを結成した川田喜久治にも、どうやら同じ傾向があるようで、彼の代表作『地図』(美術出版社、1965)を何度となく「改訂」してきた。東松や川田は、新たな解釈によって、作品が生き物のようにメタモルフォーゼしていくこと自体に喜びを感じているのではないだろうか。
川田が今回の「エンドレス マップ」展のリーフレットに掲載した「光と時の寓話―2021」によれば、「地図 The Map」シリーズのプリントは、以下のように変貌していった。「半世紀ほどまえ、まず暗室で薄い複写用紙から始まる。それから、ゼラチン・シルバーにセレン調色、さらにプラチナ・プリントへ、(西丸雅之氏による)つづいて、バライタ紙にピグメント・インクジェット・プリント。いま、手漉きの和紙にピグメント・プリントを試みる。2019年から、3台の違ったインクジェット・プリンターで行われた」。80歳を越えた川田の、新たな可能性を求め続ける無尽蔵のエネルギーには驚くしかない。
結果的に「手漉きの和紙にピグメント・プリント」によって、同シリーズのイメージは大きく変わった。以前のプリントでは、黒白のコントラストを強調することで、画像情報がかなり損なわれていたのだが、高精度のスキャナーとインクジェット・プリンターを使うことで、その細部が浮かびあがってきている。そのことで、写り込んでいるモノの質感、例えば神経繊維を思わせる金属コイルや壁の染みなどの見え方がまったく違ってきた。さらに今回、川田は写真集『地図』に収録されたものだけでなく、アザー・カットを10点ほどプリントしている。トリミングを変更した写真もある。以前の見え方の方がよかったという反応も、当然出てくると思うが、新たなチャレンジによって、まさに「エンドレス」に更新を繰り返す「地図 The Map」の姿が、はっきりと見えてきたのではないかと思う。
2021/01/29(金)(飯沢耕太郎)