artscapeレビュー
カタログ&ブックス | 2021年3月1日号[テーマ:東日本大震災]
2021年03月01日号
テーマに沿って、アートやデザインにまつわる書籍の購買冊数ランキングをartscape編集部が紹介します。今回のテーマは、この3月で発生から10年を迎える「東日本大震災」。「芸術・アート」ジャンルのなかでこのキーワードに関連する、書籍の購買冊数ランキングトップ10をお楽しみください。
「東日本大震災」関連書籍 購買冊数トップ10
1位:嵐みんなの卒業証書2011−2019 WAKUWAKU SCHOOL OF ARASHI(ARASHI PHOTO REPORT)
2020年末の活動休止を控えたARASHI。「日々是気付」をテーマに、東日本大震災が発生した2011年からチャリティーイベントとしてスタートした「ワクワク学校」を、2019年の最終回まで収めた完全版フォトレポート。
2位:風の電話 映画ノベライズ(朝日文庫)
東日本大震災で家族を失ったハルは、心の傷が癒えないまま広島の伯母のもとで暮らしていた。ある日、伯母が倒れたことをきっかけに、ハルは一人、故郷を目指す旅に出る。「どうして自分だけが生きているのか?」──その答えを探しながら。
3位:Fukushima 50 オフィシャルフォトブック
東日本大震災が発生、福島原発事故後も現場に残った名もなき作業員たち。岩代太郎による日本映画史に残る映画音楽3曲を収録した豪華特典CD付き! 忘れてはならない男たちの闘いの記録がここに──。
4位:やすらぎの刻〜道〜 第5巻
脚本家の菊村栄は師と仰ぐ人物の遺稿を目にし、失いかけていた「道」執筆の情熱を取り戻す。「道」の中では、東日本大震災の日を境に状況が一変し…。テレビ朝日系ドラマのオリジナル・シナリオ原稿を元にまとめたもの。完結。
5位:時の余白に 正
創作の内実に迫る美術記事を長年にわたって書いてきた練達の記者が、「周縁」から美を見つめ続けた定点観測。新聞連載コラム。2006年春の連載開始から東日本大震災後の2011年秋まで、丹阿弥丹波子による深沈とした銅版画とともに好評を博した珠玉エッセイ66篇。
6位:震美術論(BT BOOKS)
自然災害による破壊と復興、そして反復と忘却を繰り返してきた日本列島という「悪い場所」において、はたして、西欧で生まれ発達した「美術」そのものが成り立つのか──。
東日本大震災をひとつのきっかけに、日本列島という地質学的条件のもとに、「日本列島の美術」をほかでもない足もとから捉え直すことで、「日本・列島・美術」における「震災画」の誕生、そして、そこで「美術」はいかにして可能となるのかを再考する画期的な試み。
〈本書に登場する災害、作家たち〉
リスボン大地震/カント/ヴォルテール/ペストの大流行/御嶽山噴火/関東大震災/三陸大津波/山下文男/飯沼勇義/山内宏泰/伊勢湾台風/赤瀬川原平/東松照明/土砂災害/瓜生島沈没伝説・慶長豊後地震/磯崎新/岡本太郎/安政江戸地震/狩野一信/三陸大津波/山口弥一郎/東南海・三河・昭和南海地震/藤田嗣治/東日本大震災/高山登/笹岡啓子/畠山直哉/村上隆/Chim↑Pom
7位:The Pen
1ミリ以下のペン先が1日に生み出す10センチ四方。その20年の軌跡を収めた池田学の画集。著者厳選の100点をはじめ、東日本大震災への想いを込めた大作「誕生」の制作ドキュメントも収録。
8位:日の鳥 1
突然いなくなった妻を捜して旅に出た雄鶏が見た、東日本の風景とは…。東日本大震災の記憶を、ぼおるぺんの優しいタッチで描く。『週刊漫画ゴラク』連載を単行本化。
9位:日の鳥 2
妻を探して、雄鶏の旅は続く。震災を生き延びた樹に、誰も住まぬ民家の窓に、懐かしい面影をただ求める…。震災から5年の東日本の姿を、ぼおるぺんの優しいタッチで描く。『週刊漫画ゴラク』連載に描き下ろしを加え単行本化。
10位:写真で伝える仕事 世界の子どもたちと向き合って
ゴミを拾い家計を支える男の子、仮設住宅の暮らしが続く中学生…。世界の貧困・難民問題や東日本大震災を取材するフォトジャーナリストが、自身の仕事について語るとともに、これまでに出会った子どもたちを紹介する。
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artscape編集部のランキング解説
あれから10年。2011年3月11日に発生した震災の日の記憶をまだ鮮明に覚えている人も多いでしょう。水戸芸術館での「3.11とアーティスト:10年目の想像」など、3.11とそれからの10年間を振り返る展覧会も開催されているなか、今月はカテゴリ「アート・芸術」にまつわる書籍のなかから「東日本大震災」というキーワードでの販売数ランキングを抽出してみました。
1位は、2020年末をもっての活動休止も記憶に新しいアイドルグループ・嵐による、東日本大震災を契機に東京ドームと京セラドームで毎年開催されるようになったチャリティイベント「嵐のワクワク学校」の軌跡をまとめたフォトブック。嵐のメンバーが教師役となりさまざまなテーマの講義を繰り広げ、東日本大震災だけではなく2016年の熊本地震や平成30年7月豪雨、令和元年房総半島台風などの被災地域に収益金の一部を寄付したそう。アイドルゆえの社会への寄り添い方や責任などについても思いを巡らせてしまう一冊です。
美術評論の分野からは、椹木野衣による『震美術論』が6位に。1995年の阪神・淡路大震災をひとつの契機として書かれた『日本・現代・美術』に登場する「悪い場所」論の再考に始まり、災害の絶えない日本列島における美術と美術史のあり方を、明晰な文体で問い続ける一冊。
『この世界の片隅に』のこうの史代による、震災から少しの時間が経過した東日本の町や自然の風景のスケッチと短い言葉で編まれた『日の鳥』も1・2巻続けてランクイン(8、9位)。震災の生々しい爪痕を残した風景や、復興に向かっていく市街地など津々浦々の様子を主人公の雄鶏の目線で辿っていくうちに、心にほんのりと明かりが灯るような感覚が生まれます。
フォトジャーナリストの安田菜津紀による『写真で伝える仕事 世界の子どもたちと向き合って』(10位)では、津波から生き残った著者の夫の父に「奇跡の一本松」の写真を見せたときに掛けられた「なんでこんなに海の近くに寄ったんだ!」という言葉をはじめ、現地での対話なくしては気づくことのなかった被災者の心の傷や、写真という手段で世間に現状を伝える葛藤や意義に思いを寄せるきっかけになる一冊です。ウガンダ、シリア、ヨルダンなど政情の不安定な地域に生きる子どもの生活をとらえた章のなかには、陸前高田の仮設住宅で暮らす13歳の女の子の姿も。
10年経った現在でも、いまださまざまな影響を残す東日本大震災。この10年間で何が起こり、私たちの生活や心にどのような変化をもたらしたのか。3.11以降も絶えず起こる災害の存在は、この国の機能不全や積み残された問題をそのたびに浮き彫りにしています。今回のランキングをきっかけに、あなたの問いを探してみてください。
2021/03/01(月)(artscape編集部)