artscapeレビュー

並木のパブリックアートプロジェクト

2021年03月01日号

会期:2021/01/16~2021/01/31

金沢シーサイドタウン各所[神奈川県]

開発50年を迎えた横浜市の金沢シーサイドタウンを舞台に、人とアートの出会いを演出する「ナミキアートプラス」プロジェクト。その一環として、期間限定のパブリックアートを並木地区の商店街や住宅地に展開している。今日は、黄金町芸術学校のプログラムとして毎月1回開いている講座が緊急事態宣言で中止になったため、代替案としてこのパブリックアートをオンラインで紹介しようということで訪れたのだ。ぼくもこのプロジェクトのことは知らなかったので、最初にスタッフからレクチャーを受ける。ふむふむ、なるほど、そうだったのか。作品展示はキム・ガウンと池田光宏の2人で、ほかに「まちあるきプログラム」としてorangcosongも参加しているという。

同地出身の池田は、並木地区の住人が家や商店に飾っているお宝コレクションを調査し、そのお宝の画像とキャッチコピーを大きくバナーにプリントして、展覧会の広告みたいにアーケードの天井から吊るした。題して「BGAプロジェクト─横浜・並木のアートシーン─」。BGAとはバックグラウンドアートの略で、いつも身近にあって生活に溶け込んだアートのこと。「佐久間玉江の陶板画展」「KOUTA 並木少年画家」「さとうりさ ワークショップ」といったように、10枚ほど掲げられている。池田尚弘という人の絵もあったが、地元出身の作者、池田光宏と名前がよく似てないるなあと思ったら、やっぱり無縁ではないらしい。コレクション自体はどれも豪華なもんではないけれど(本物の高価なお宝があっても税金や盗難の関係で出せない?)、どうせなら独り占めするより地区全体で共有しようという発想だろう。

韓国出身のキム・ガウンは、日本やイタリアにも長く住み、絵本作家、ジュエリーデザイナーとしても活動するアーティスト。クマとウサギが主人公の絵本も書いており、ここでは池や公園など5カ所にクマとウサギがクジラや魚と戯れる壁画を制作している。なぜクマとウサギかというと、黒と白、大と小、コワイとカワイイといったように対照的な動物だからだそうだ。それがクジラや魚と遊ぶのは、ここがもともと埋立地につくられた集合住宅地で、それ以前は海だったから。そうした土地の記憶を遡った絵物語を綴っているのだ。圧巻なのは、公園に建つ東屋の円蓋にマーカーペンと鉛筆で描いた天井画。東屋は3メートル四方ほどの大きさだが、線描なので大変な作業だったはず。これは残しといてほしいなあ。

これらのパブリックアートは半月しか公開されないのが残念だが、短期間という条件だからこそ可能だったともいえるだろう。長期間展示しようとすれば、安全性や耐久性、環境や美観への配慮などクリアしなければならない問題が出てきて、結局当たり障りのない表現に落ち着いてしまいがち。だから恒久的なパブリックアートはつまらないものが多いんだね。



キム・ガウン《海を想う》(2021)金沢センターシーサイドショッピングセンター


2021/01/26(火)(村田真)

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