artscapeレビュー
小松浩子・立川清志楼「網膜反転侵犯」
2021年03月01日号
会期:2021/02/04~2021/02/21
MEM[東京都]
面白い組み合わせの二人展だった。1969年、神奈川県出身の小松浩子は、建築資材置き場を撮影した写真をロールペーパーに大伸ばしし、それらを床や壁に貼り巡らすインスタレーション的な作品を発表して、2017年度の第43回木村伊兵衛写真賞を受賞している。1967年、茨城県生まれの立川清志楼は、やはり物質性の強い被写体を題材にした写真・映像作品をコンスタントに発表してきており、2020年度の写真新世紀展で優秀賞(オノデラユキ選)を受賞した。今回の二人展では、小松が2019年に埼玉県立近代美術館で開催された「DECODE/出来事と記録―ポスト工業化社会の美術」展の出品作「The Place, from 内部浸透現象」を、立川が動物園を撮影した映像作品の新作「第一次三カ年計画 Selected Remix」を展示していた。
資材置き場も動物園も、資本主義社会のグローバル・ネットワークから漏れ落ちたり、取り残されたりした場所といえる。そこでは均質化し、秩序づけられたエリアでは見ることができない、剥き出しのモノや自然の姿が露わになっている。小松も立川も、それらを記号化された画像としてではなく、大サイズの印画紙や映像を投影する紗幕などを使って物質性を強調して提示している。会場に入ると、小松のプリントが発する、定着液の饐えたような匂いが漂ってくるのだが、視覚だけでなく嗅覚や触覚も総動員しなければならない。映像の物質性を強く打ち出すと、ともすればその変換の手つきだけが目につく作品になりがちだが、小松と立川は動機と手法とが無理なく接続している。マンネリ化を避けることができれば、次の展開が期待できそうだ。
2021/02/11(木)(飯沢耕太郎)